鎌倉殿の13人

鎌倉殿の13人 第29回『ままならぬ玉』

投稿日:2022年8月1日 更新日:

鎌倉を支えてきた

宿老の一角が崩れた。

バランスを失い、

大きく振れる権力の振り子。

それを止める者は、誰だ。

13、がもうすでに9

梶原景時(かじわらのかげとき・中村獅童)が殺され、中原親能(なかはらちかよし・川島潤哉)は去った。
ついで三浦義澄(みうらのよしずみ・佐藤B作)があっさり病死。
さらに安達盛長(あだちもりなが・野添義弘)も静かに去ったようです。

ものすごいスピード感で13人の合議制は「あってないようなもの」になってしまいました。
そして北条ヨシトキ(小栗旬)は多くのシーンにいますが、特に何もしていません。
この「特に何もしていない」っていうのが北条ヨシトキの特徴であり、北条が生き残った術でもあるのかと思わせてくれます。
激動の鎌倉初期に、純粋にリアクターとして常に「殺されない側」にい続けた男。
13人のうち最年少としては、長老・宿老たちの鍔迫り合いを、ただ眺めているしかなかったのか。

北条時政(ほうじょうときまさ・坂東彌十郎)が従五位下・遠江守に。

位階と役職で、その人の「偉さ・貴さ」が決定されるのがこの時代。
大宝律令に、その段階ステージが決められています。

正一位
従一位
正二位
従二位
正三位
従三位

正四位上
正四位下
従四位上
従四位下
正五位上
正五位下
従五位上
従五位下



と続きます。

この官位は、シンプルに「どれくらい偉いか」なので、1つでも上の人には基本的に逆らえません。
上から6個までは最も偉く、公卿(くぎょう)と呼ばれます。
四〜五までが「諸大夫(しょだいぶ)」。
六位からは「侍」になります。

官位を持っているというだけで、持っていない人らからすると「貴族ッ!!!!」っていう感じで驚きの尊さだったりしますが、例えば正二位の公卿からすると、六位の人間などは人間扱いしなくても誰にも怒られない程度のものです。動物のような扱いをしても構わない、とナチュラルに親子代々思っている、くらいの風潮があります。

少なくとも坂東で荒々しく生きてきた北条時政が「従五位下」に任じられたのは、「そこらの侍とは格が違うよ」ということを示す、シンボリックな出来事でした。

そしてあの「曽我事件」があった年、遠江国では富士川の合戦以降、源頼朝(みなもとのよりとも・大泉洋)によって守護に任じられてきた安田義定(やすだよしさだ。甲斐源氏)が謀反の疑いで討たれ、その役職を北条時政が襲った、という順序になるようです。

源頼朝が、源氏一族にしか許していなかった「守」の役職が北条時政に与えられた。
御家人の官位や役職は、鎌倉殿が代表して朝廷に打診する、という順序を経る習わしになっているので、北条政子(ほうじょうまさこ・小池栄子)を通してねじ込んだ形でした。

これもまた、北条一族を強くして比企を少し牽制してバランスをとる…という、源頼朝が描いていた未来図を北条政子が継承しており、それを源頼家(みなもとのよりいえ・金子大地)が理解した、と見ることもできるかもしれませんね。いや、単純に母親が怖かっただけかも。

超有名エピソード、登場

陸奥国葛岡(くずおか)、新熊野(いまくまの)神社の境相論(所領争い)。

土地の大きさ・境界の区別は、その土地に生きる者たちにとってまさに死活問題です。
鎌倉殿に持ち込まれる裁判のほとんどは所領争いで、かつて平安時代以前から続く支配層と、新たに派遣された幕府の地頭たちとの「どっちが年貢を管理するのだ」問題も、全国各地で絶えず頻発しています。

つまり鎌倉殿はじめ武士中央政権が執り行うべきなのは「公平で正当な、土地の分配と裁き」なわけで、これを期待してこそ、鎌倉殿(初代)に武士たちも付き従ったはずですよね。

源頼家は合議制に反発する意味合いも込めて、モメてる境界線に一本線をビシッと引き、「所領の広い狭いなどはしょせん、運である」と言い放ちました。

「一所懸命」という言葉があるように、「自分の土地に命を懸ける」つもりで生きている人らにとって、この裁決は驚天動地。「鎌倉幕府は今後、こうやって土地問題を決めまーす!」と発表したら全国一斉に2秒以内に謀反が起こり、政権は転覆されてしまいます。源頼家はなぜかそれをやった。

しかも、畠山重忠が「神仏に支える者の訴えをぞんざいにするな。天罰が下るぞ」と優しい言い方で諭しても「望むところよ」と嘯きました。

なぜか。

暗愚だからです。
プライドだけが富士山よりも高く思慮が由比ヶ浜より浅い二代目ボンボンは、全てが最初から自分の前にひれ伏すのが当たり前だという価値観で生きている。なので逆らえるものなら逆らってみろ、くらいの勢いで政治を行おうとしています。戦に出たこともないのに、武断政治を受け継いだ者だと勘違いをしています。

『吾妻鏡』にはそういう雰囲気がぷんぷんと漂っており、愚かしい若君の専横・蛮行で、政治がめちゃくちゃになってしまった、「だから」ああいう結果になってしまったんだよね〜という「前フリ」として、「悪い源頼家ちゃん」が描かれてる。とにかく蹴鞠ばっかりして、ぜんぜん言うことを聞かない。

この「一本線を引っ張ったエピソード」も、本当かどうかわかりません。
昨今はこれ、『吾妻鏡』の創作なんじゃないかと言われています。
しかしさすがに比企能員も「これはやばいかも」っていう顔をしてましたね。

善哉、爆誕

のちに鎌倉全土が震撼する巨大な事件を起こす、善哉(ぜんざい)が生まれました。
恐怖の前フリはいつも、祝福とともに降りてきます。

と同時に、源頼家の弟である千幡(のちの源実朝)を次の鎌倉殿に据えるため、源頼家を呪え、とりく(牧の方・宮沢りえ)が画策。

呪術を仕掛けよ、と阿野全成(あのぜんじょう・新納慎也)に依頼します。

阿野全成は千幡の乳母夫であり、乳母は妻の実衣(みい・宮澤エマ)。
北条時政は、自分の娘が乳母なのですから、源頼家が消えてくれるのは良い話です。
源頼家がいなくなってくれれば、三代目(北条ラインの)政権が出来上がる。

源頼朝が生きていれば、長男・源頼家/比企能員グループと、次男・千幡(源実朝)/北条時政グループで、バランスが取れてたはずなんです。おそらく源頼朝はそれを構想していたでしょうし、まさかお互いがこんなにすぐ殺し合いを始めるなんて、思いもよらなかったでしょう。

阿野全成は源頼朝の弟。源頼家は彼にとって甥です。
その甥を呪わなければならないというのは、自分の血筋を考えても複雑なところだったでしょうね。
源頼朝の嫡男である源頼家が「鎌倉殿」を相続するというのは納得せざるを得ないものの、その源頼朝がおらず、暗君として問題もあるとなると、自分も源氏の血を引くものとしては襲名もあり得る。

処世術として誰にも言わずにきてるっぽいんですけど、思いとしてはあるはず。
逆に言えば出家しているからこそ、ここまで生き延びることができたとも言えるけど。

「頼全(らいぜん)からの手紙」のシーンがありました。
京都のお寺で修行している、阿野全成と実衣の息子です。
考えてみれば阿野頼全、「源氏と北条」の人ですね。
条件は源頼家とほぼ同じ。

穏やかな親子の情が通う、そんなはずのシーンなのに、妙に不穏なBGMが流れていました。
阿野全成が呪いの人形を作る場面とつながって…。

北条泰時の聡明ぶり

北条頼時(ほうじょうよりとき・のちの泰時・坂口健太郎)が伊豆に派遣され、飢饉で苦しむ農民を助ける、という場面が出てきました。
証文を破り、借米をチャラにするという「徳治」を行い、これを源頼家が嫉妬。
側近からも追い出してしまいました。

真面目で真っ直ぐな北条泰時は、きのこを初(はつ・福地桃子)に送って突き返される…北条ヨシトキは自分の若い頃を正確に思い出して唖然…。

孤独と、莫大な権力に戸惑う源頼家

源頼家は従二位・征夷大将軍になりました。
これが源頼家のピーク、か…。
源頼朝は最終的に正二位にまでなりましたから、源頼家がこの後、長く生きて政治的に活躍したら父と同じく、源氏最高位、またはそれ以上にすら達することは可能だったでしょう。

自分の弱さを自覚し、信じるものが欲しい、信じてくれるものが欲しい、と正直に吐露する若き将軍。
この素直さと優しさがちゃんと表面に出ていれば、彼の人生は後1年、なんて短いものにはならなかったのに…。

平知康(たいらのともやす・矢柴俊博)が井戸に落ちるという(本当にあったらしい)夜のエピソードでした。阿野全成がそこに居合すという、運命的な場面。

それにしても平知康という人はすごいですね。
源頼家の蹴鞠の先生・側近として鎌倉にいますが、この人は後白河法皇(ごしらかわほうおう・西田敏行)に「木曽義仲(きそよしなか・青木崇高)討つべし」の進言をした人です。牛車の降り方を嗤ってた。そして源義経(みなもとのよしつね・菅田将暉)が京で活躍してた時には一緒に活動してた。それがいつの間にか二代目鎌倉殿の近くにいる。源頼家が失脚すると、また京都へ帰って行きます。「鼓判官」と呼ばれるほどの鼓の名手だったそうですが、こういう「文化人・文化系貴族」はやっぱりなんだかんだで重要視され、すぐに殺されたりしないんですね。化け物級の世渡り術を持っている。そういう都人が、無数に蠢いているのが京、っていうことでもあります。

そしてやはり阿野全成はこの時点で、自分の行く末を、どこか自覚してたとしか思えない。

彼も、悲しい源氏の一人です。

今回の『鎌倉殿の13人紀行』は、ここでした。

三浦義澄の墓(薬王寺旧跡)







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