見たもの、思うこと。

タリバンのすごさと絶望の闘い。『アウトポスト』

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アウトポスト

 

キーティング前哨基地は、ヌーリスターン州にあったそうです。
標高4,000mオーバーの山々が連なる山脈の中。
東側はパキスタンの国境に接しており、見るからに山岳地帯というような峻険な場所です。
※赤点線内がヌーリスターン州
その中にあった、キーティング前哨基地。
あと40kmほど険しい山を東に進めばパキスタン、という場所です。
航空写真で見ますと、なんでこんなとこに…とすぐに思うほどの、山間です。

ヒンドゥークシュ山脈の谷間にあるこの場所を「キャンプ・カスター」と呼んだ人もいるほど。

カスターと言えばカスター将軍。
南北戦争を知るアメリカ人にとっては、彼が「現地人」スー族との戦いで無謀な作戦で隊を全滅させ戦死したことから「無謀」とか「全滅」を簡単に想起できる言葉なんでしょう。

それにしても、すごいところにあります。

アウトポストとは、「COP(コンバット・アウトポスト)の略。

映画のあらすじ
アフガニスタン北東部のキーティング前哨基地。アメリカ軍の補給線を維持するための重要拠点である基地には、致命的な弱点があった。四方を険しい山に囲まれた谷底に位置し、敵に包囲されれば格好の的となってしまうのだ。襲撃を受けながらも敵が少数だったため、これまでは事なきを得ていた。だがそれは基地の防衛能力を調べるためのタリバンの計算だった。そしてある朝、突如、数百人ものタリバン兵による猛攻撃が始まる…。

2021年、アフガニスタンからアメリカは完全撤退。
アフガニスタン共和国政権とともに戦ってきた(映画内にもアフガン政府の軍人がいた)アメリカは、ついに手を引くことになりました。

そうすると瞬く間にタリバンが全土を掌握。
政府軍は負け、要人や協力者は当然のように粛清されました。
アフガニスタンの代表に、タリバンは返り咲いたのです。
この20年はいったい…じゃあアメリカ兵のこの犠牲って…。

何度も言いたくなりますが「なんでこんな場所に…」というところにキーティング基地はあります。
この基地は2006年に作られた当初から、絶え間ない攻撃にさらされたそうです。
そりゃそうですよね、四方の山から自由に近づいて来れ、向こうには土地勘もある。
地元の住民も、どちらの味方かはわからない。
遠く離れたアメリカから送り込まれた若い兵士たちは、それでも平常心を失わず、序列を守り、規律の中でなんとか戦っている。

あらすじにもあるように、小出しに撃退できていた攻撃が何度も続き「タリバンが来るぞ!」と通訳が本気で警告してきた時も、その叫びはもはや「タリバン少年」と化しており、哨戒の兵士も油断するくらいになっていた。おそらく「何もなければ本当になにもない、風が吹いているだけの土地」なんでしょうし、それなりに現地の人への宥和策も進んでいたんでしょう。

しかしタリバンが、そんなの許すわけがないのです。

このとんでもない突然の大攻撃は「カムデシュの戦い」と呼ばれ、300人以上で現れたタリバン兵との戦闘で、米兵27人が負傷、8人が死亡しました。アフガン政府側の守備兵も4人が死亡。航空支援により米軍機ロックウェルB-1ランサー(通称ボーン)から爆撃が行われ、戦闘は終了。タリバン兵は150人以上が死亡したと言われています。

 

なんでこんな場所に

何度も申しまして恐縮ですがこの基地、「なんでこんな場所に…」と言いたくなる場所にあります。

先ほど「パキスタンが近い」と書きましたが、これがミソだったようです。

土地勘のあるタリバンにとって、パキスタンからの補給路は重要で、確保したい場所。
兵士そのものや食糧や医療品だけでなく、とうぜん武器の輸送にも使われ輸送路だったのでしょう。

つまりタリバンにダメージを与えるには、この補給路を押さえるのが大事、ということですね。

そして同時に、とんでもないド田舎である東部(ヌーリスターン)に兵力と財力を投入することは、アフガニスタン政府や国民に、それなりの国際社会からの恩恵と信用を与える目的に即していた、ということになります。

だけど「周りがとんでもない山に囲まれてる」「狙われたら実はめちゃヤバい」場所であることに、変わりはありません。

上層部が決めた戦略的な、極めて政治的な思惑が、現場の兵士たちの命を平気で危険に晒す…という歯痒さがあります。
「頑張れ」とか「やるしかない」とか「うまくやろう」とか「命令だぞ」というような感じで、映画の最初の方で(戦闘ではなく)あっさりベンジャミン・D・キーティング大尉(オーランド・ブルーム)が死んでしまいました。訓練された兵士たちは気丈に、次に現れる上官にも従います。制作された映画を見ているだけでも、犠牲は大きかったものの「ひとつ間違ったら全滅してたかも」感がひしひしと伝わってきます。現実にあった戦いだけに「よく生き残ったなお前ら…」としか思えない、絶望が感じられます。

 

タリバンはどうしたいのか

ラストに近いシーンで、斃れたタリバン兵の遺体を片付ける地元民と思われる女性が数人、描かれていました。

みなブルカを纏い、顔はおろか体の線の一部ですら見えません。

奇しくもイランの首都テヘランでは、頭髪を覆うスカーフを適切に着けていなかったかどで道徳警察に逮捕された女性が警察車両の中で殴られ、その後、亡くなってしまいました。

スカーフの着け方で……イラン道徳警察に逮捕された女性が死亡 女性たちが抗議
https://www.bbc.com/japanese/62944807

「ヒジャブ」と呼ばれるスカーフ、女性は適切に身につけないと逮捕され殺されるんでしょうか。

PARCICというNGOのサイトには、

イスラム教の女の子たちは、イスラム教の経典コーランにおける神の教えに従いヒジャーブを着けます。神は、貞節な女性たちに「目を伏せ、プライベートな部分を守り、(魅惑させないよう)飾らず」にと伝えています。これは、女性たちが名誉と尊厳を維持し、謙虚さを保ち、性欲的な外的要因を取り除くことで、社会でイスラム教徒として認められ、虐げられることを防ぐためです。若い女性が思春期に達すると、頭をスカーフで覆うことが義務になります。一部の家族は、スカーフをつけるかどうかの決定を娘に任せていますが、社会的プレッシャーとなると別の話です。

ヒジャーブを着けることで、女性たちは、愛、プライド、エンパワーメント、満足感、充実感、抵抗心、さまざまなプラスの感情を表現することができます。でも、悲しいことに、それは憎しみ、困惑、哀れみ、そして軽蔑感などネガティブな感情の引き金にもなります。ある人にとってはヒジャーブの着用は抑圧であり、またある人にとっては自由な選択です。アイデンティティの印として身につける人もいれば、精神性の証として身につける人もいます。通常、女の子は親族関係にない男性の前や、結婚者側の家族にいる男性メンバーの前でヒジャーブを着用することを求められます。着用は家の中と外の両方で、周りのアブない男性から、ホコリや有害な紫外線から、その他予想外の害を及ぼすすべてのものから女性を守るためです。

ヒジャーブ(スカーフ)って何?イスラム教徒の女性はなぜヒジャーブを着けるの?
https://www.parcic.org/report/palestine/palestine_learn/18024/

と書いてありました。
これがイスラム社会における、「女性観」なのでしょうか。

ヒジャブの効用には「周りのアブない男性から、ホコリや有害な紫外線から、その他予想外の害を及ぼすすべてのものから女性を守る」という素晴らしいものがあるようですが、そこにはなんだか「それは個人の自由である」というポイントがすっぽり抜け落ちているように思えてきます。
「女性たちが名誉と尊厳を維持し、謙虚さを保ち、性欲的な外的要因を取り除くことで、社会でイスラム教徒として認められ、虐げられることを防ぐため」なのはとても良いと理解はできるのですが、例えば「性欲的な外的要因を取り除くかどうか」は、その女性本人が決めることではないでしょうか。

それを「あなたを守るためよ」という理由で半ば強制しているのがヒジャブ、と言われてしまいかねない状態に置いているのが現状、イスラム教の世界観だと言えると思います。

しかもこれは、日本やその他、女性が自由な選択をすることが可能な国々での話に限られます。

タリバンが支配することになったアフガニスタンでは、女性は、男性親族の許可・付き添いなしには外出することができません。外出するときにはブルカが必要です。
全身をすっぽり覆わないとダメです。
強制です。
学校に通うことは禁止です。
保健所にも行ってはいけません。
労働もダメです。
家にずっといないといけないのです。

家にずっといることが、「女性たちが名誉と尊厳を維持し、謙虚さを保ち、性欲的な外的要因を取り除くことで、社会でイスラム教徒として認められ、虐げられることを防ぐため」になるからです。

2021年の10月には、ある結婚式をタリバンが襲撃、3人が殺されました。
事件の詳細は不明ではあるものの、演奏されていた音楽を止めさせた上で殺しているところから、タリバンの犯人説が濃厚です。
なぜならタリバンは「音楽は禁止」を強制しているからです。

女性の出演しているドラマや映画も禁止です。
車内で音楽を流すのも禁止になったそうです。
「娯楽はだいたい禁止」なのです。

日本に比べると、もはや地獄と言っても差し支えないです。

タリバン名乗る男3人、結婚式に乱入3人殺害 音楽問題視か
https://www.afpbb.com/articles/-/3373508

 

タリバン「アゲ」な人たち

ところが意外にも、「タリバンがんばってるよ!悪くないよ!」という記事もあったりするのです。

タリバンのアフガニスタン速攻制圧なぜ? 7年前から「寸止め」、農村支配で都市包囲
https://globe.asahi.com/article/14426582

上記に挙げた女性への人権侵害に関する内容はただの1文字も出てこず、

村でタリバンが存在感を示したのは裁判だった。土地をめぐる争いや金銭問題など、村人が抱える仲裁案件は数多いが、政府系の役場や裁判所に持ち込んでも、賄賂を要求されたり、放置されたりするのが常だった。タリバンは1週間ほどで判決を出した。異論があっても銃の力で抑え込み、判決を守らせた。

銃の力で…それでいいのけ??
法をかいくぐる賄賂よりも、異論を銃で脅す方が上位なのけ???

記事の冒頭に「アフガニスタン取材歴50回を数える私は考えている。」と書いてあるので、タリバン寄りの考えが身についてしまってるのか、そういう体裁で行動をしないとタリバン優勢の土地では危険で取材ができないのか、まー色々事情があるんですねえ…と勘繰ってしまいました。

そう言えば上掲の記事には

タリバンが全土を席巻し、

とか

政権を手中にした。

とか、なんとなくですが「よくやったぜ!すごいぜタリバン!」的な、民に支持されてるからこその正義の執行だぜ的なニュアンスを含ませたくてしょうがない、思惑(ヨイショ)のようなものが感じ取れます。

超絶に極端なイスラム主義を掲げる残虐としか言いようがない武装集団タリバンが政権を奪還してしまい、米軍すら「もう知らん」と撤退してしまったアフガニスタン。反米に偏るならばとロシア・中国も肩入れしています。

あのキーティング前哨基地だけの話ではなく「なんでこんな遠いとこまで来て死なにゃならんかったのよ…」と嘆くしかない連合軍の兵士と遺族は今でもたくさんいるし、なにより虐げられているアフガニスタンの人々。

アメリカみたいな、日本みたいな感じの国になった方が絶対幸せじゃないか!と我々はまず感じます(コカ・コロナイゼーションと呼んだりする)が、イスラムの教義じたいが必ずしもそれを推奨しません。いろんな国々に合わせて融通を利かせて暮らしているイスラム教徒も多いものの、そこから出ず、話し合いや文化ではなく武力のみで抵抗し、西洋をいっさい拒絶しながら甘い汁は吸うよ上層部、という活動を続ける過激武装勢力と、ましてや爆弾を体に巻いて一般市民を虐殺する自爆攻撃が「善し」とされている価値観の人たちと、相容れることなど今後、できるのでしょうか。

軍の特殊部隊内に専門の自爆部隊を設ける、と宣言したタリバンには、すでに自爆部隊「バドリー旅団」というものがあり、自爆テロをいつでも実行できるように育成した人間がもう1000人以上いるそうですし。

アフガニスタン取材者・特派員の人たち、またはテレビやSNSで頻繁に発言されている著名な専門家の先生方は、飯山陽氏の鋭い指摘を読むまでもなく(読んだらだんだん腹立ってきます)、そこはかとなく「アフガニスタンの混迷は、米、そして西側諸国が絶対的に悪いんだよ〜ん」というトーンに満ちているように感じます。

「民族自決でしょ?アフガンのことはアフガンで決めるんだから」と、特別扱いされて俯瞰的に、高級貴族の目線で「取材結果」を語るその様子は、まるで北朝鮮に対する報道とそっくりです。

「ミイラ取りがミイラになる」という言葉が、自然に脳裏に浮かんでくる所以です。

 

タリバンはすごいんだぞ…

知らない人も多いようですが、上掲のヒジャブやブルカや「女性を守る」という一応の建前は文字として理解できるんですが、これは「イスラム教徒の女性に対して」に限定されるんです。

では、異教徒の女性はどうか。

「性奴隷にしても構わない」が、タリバンの姿勢です。

 

 

 

 







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