仁侠ものチャレンジ

日本侠客伝 関東篇

投稿日:2020年3月23日 更新日:

日本侠客伝 関東篇

パッケージからは余計な要素が取り除かれ、「この二人が行きます」っていうのがはっきりわかる構図になっている。
だけど鶴田浩二のクレジットは「特別出演」だ。

前回、シリーズ第2作めが「浪花篇」。
今回、3作めは「関東篇」ということに。

このまま「東北篇」「北陸篇」「九州」「四国」「瀬戸内」「出雲」「リアス式」「ちゅら海」「湯けむり」「日本侠客伝 in ニューヨーク」「侠客・セイヴ・ザ・クイーン」とかに進んでいくのかと思うと、そうではなかった。

シリーズ全11作のタイトルについては、最下段を参照の事。

「関東」の、東京。

今はもうなくなった、築地市場が舞台。

場外は、まだある。まだまだ盛況。

大正12年、市場は築地へ、日本橋からまとめて移転した。
理由は、関東大震災。
やはり第二次世界大戦以前、世の中が大きく変わった、とりわけ大都会・東京にとっての超大事件といえば関東大震災だった。
築地市場は、海軍省の所有地だった場所に、水陸両用の利便性を見出されて開設された。

初めて行った時は驚いた。
もちろんその規模や活気に。
「ぎ、銀座のとなり????」という、その立地に。

完全なる徒歩圏内にあの銀座がある。
その向こうはもう皇居、だ。

そういう距離感のところに、世界一と謳われた市場があった。
確かに隅田川の便利さ、都会への近さで、築地は絶好の場所だった。

その利便性は、豊洲に移転した今でも変わらないとは思う。
ただし、築地に豊洲市場と同じ規模・同じ条件のものを建て直すことが不可能な以上、移転するしかなかったのだ。
場所的には豊洲も良いところだと思うが、「せーの、よっ!」で一気に築地の場所で新築できるなら、立地条件としては築地の方がいいんじゃないかと思えるほどではある。

それにしても豊洲移転問題とはいったい何だったのか。

 

威勢のいい魚河岸の男たち。
今回も長門裕之が大活躍。

「東京市場協同組合」に参加するかどうか…通称「新組合」に加盟するかどうか…。
河岸のキップ、古い体質の男気を通すのか。
ヤクザを使って金と力で横暴な荒っぽいやり方で押しまくる新興勢力のやり方に屈して、「近代的脱皮」を果たし、組合に参加するか。

老舗問屋「江戸一(えどいち)」に流れ着いた男。

今回、主人公・緒方勇(高倉健)は、例になく破天荒で明るいキャラ設定、になっているような気がする。
元機関士で、ちょっと抜けてて調子がいい、っていう感じ。
しかめっ面で「渡世の義理でござんす」という雰囲気はなりを潜めて、労働者たちのリアルな生き方、みたいな方にフォーカスが寄っている。

組合に参加しない問屋に、魚を潰すいやがらせをするヤクザたち。

オープニングから25分を過ぎた頃、築地を懐かしむ形で5年ぶりに、江島勝治(鶴田浩二)が帰ってきた。

なんとこの「関東篇」は、2作目「浪花篇」と同じ年に公開されいる。
そういうペース…昔の量産体制と、「映画そのものの人気・活況」がなんとなく想像できる。

前回は村田英雄だった「歌担当」が、今回は北島三郎に(スッポンのサブ)。
劇中で「オハコを聞かせてくれよ」と言われて歌う部分(別録音)。

義理を通して情けを捨てて
一人茶碗の酒をくむ
たかが五尺の体じゃあるが
胸にあふれる熱い涙も
おいもがる

「おいもがる」って何!?って思ったけど、歌詞検索してみたら「恋もある」だった。
そりゃそうか。

これは「男の情炎」という歌だ。

だいたい仁侠シリーズには悲恋パート、があるのだが、流れものである緒方勇(高倉健)には築地に縁故がないので、悲しい恋、叶わぬ関係、というのは江島勝治(鶴田浩二)が担うことに。
親のあとを継いで老舗を守る江戸一の女将・市川栄(南田洋子)との絆。

 

祭りの日。

外国船からマグロを買い付ける約束をしたものの、水産局が水揚げを許さない事態に。
「東京市場協同組合」が水産局長と結託して、組合に属さない問屋への妨害工作をしていたのだ。
間に入った商社の社長を監禁・拷問までして。

石津組(いしづぐみ)の組員たちを「ヤクザくん」と呼び、威勢よく立ち向かう緒方(高倉健)。

神輿を盛り上げる昼間の様子とは違って、夜には「もうどうしましょう」というしんみりした、追い込まれた事態に。

それにして、神輿が威勢よく進むような祭りが、築地にある。
それは、波除神社(なみよけじんじゃ)の「つきじ獅子祭」。
6月に行われるようだ。

波除神社の由来がすごい。

海面を光りを放って漂うものがあり、人々は不思議に思って船を出してみると、それは立派な稲荷大神の御神体でした。皆は畏れて、早速現在の地に社殿を作りお祀りして、皆で盛大なお祭をしました。ところがそれからというものは、波風がピタリとおさまり、工事はやすやすと進み埋立も終了致しました。萬治2年(1659)の事です。

万治(まんじ)2年といえば江戸初期。
名古屋城の城下町の大半が焼失した「万治の大火」が有名だ。
江戸城の天守閣すら失われるほどの大火災だった「明暦の大火」がその2年前(明暦3年・1657年)。
翌年に改元されていますから、幕府の要望があったのだろう。
その万治も、4年めに寛文(かんぶん)に改元。
天皇の在位と関係なく、どんどん元号が変わっていく。

波除神社
http://www.namiyoke.or.jp/index.html

 

聴き慣れない仕事名

ヤクザの暴力と、権力にものを言わせた横暴で、商売が立ち行かなくなってしまう魚河岸。
荷揚げ人足の頭領・三谷(大木実)も巻き込んで、一触即発の状態に近づいていく。

「小揚(こあげ)」という言葉が出てきた。
「小揚組合(こあげくみあい)の積み立て」という言葉も出てくる。

小揚。
検索するととにかくクックパッドとかのレシピがたくさん出てくるが、運送業や労働組合の関連のことだというのはなんとなくわかる。

「コアゲ」というのは荷物を陸揚げする、または運ぶ人たちの総称であり、作業そのものの名前でもあったようだ。
江戸時代からある職業名。
現在は「小型の油揚げ」にそのニュアンスのすべてを奪われているが、仕事の名前としては古いものなのだ。
組合名だけに名残りがある。

「小揚組合」は欠かせない仕事人の一大勢力として、問屋・仲買人などと共に、魚河岸を守る気概を持っていた。
だけど荷がないと仕事なく、あぶれてブラブラするしかなくなる。

 

なぜ焼津が。

ツテを求めて静岡県の焼津まで、魚の都合をつけにいくことになった緒方(高倉健)。
焼津の網元の親方(丹波哲郎)の計らいで、大量の魚の融通がつけてもらうことに成功する緒方。
しかしなんで、そんな大した繋がりもないのに彼は、融通を利いてくれたんだろう?謎だ。
そこのところ、特に説明はない。

焼津の組合に、東京へ進出したいという目論見があったのか…そういうマーケット拡張という野望が、そもそも漁業に存在するのかどうか…もわからないが、配役的に(もう出てこないけど)丹波哲郎がそこにいた、ということはなんらかの企みが水面下で渦巻いていたのか…と、疑いたくなってくる。

寿司屋のサブ(北島三郎)が殺され、市場はすっかり「新組合」の傘下に。
悪辣な、魚を小出しにして搾り取ろうとする作戦が蔓延する魚河岸に、緒方の焼津の荷が来るという朗報が。

それをもたらした緒方勇(高倉健)が、輝いて見えるお栄(南田洋子)。

小揚たちにも「失業者なんかいくらでもいるし、お前ら使わないよ?」という圧力がかかり、水産局を経由して水揚げさせない告知が出てしまう。

告示
近来一部店主ニ依ル場内秩序
不安ノ為 全市場ヲ一時閉鎖ス
當局ノ許可アル者ヲ除イテハ
無断出入ヲ厳禁ス

東京市 水産局

この当時はまだ「東京市」。
太平洋戦争中が激化し始める昭和18年に、東京府と東京市は廃止され、「東京都」になる。
東京府と東京市。
今の大阪府・大阪市/京都府・京都市みたいな感じだったんだろう。
戦争(日露戦争)に勝ち、強くてすごい国日本!という雰囲気が広がり、未来を感じる人が増え、人口が東京に集中し始めて、都市計画をちゃんと作らないとうまく回らないぞ…という感じになっていた矢先、関東大震災で大打撃を受け、とんでもない犠牲者を出してしまい、人口では大阪に抜かれる事態に…。

 

とうとう大乱闘。

水産局の権力によって、河岸揚げ(荷揚げ)ができないことになって、いつの間にかみんなの意見をまとめる立場になっている緒方(高倉健)は、魚河岸の人たち全員に、立ち上がることを促す。

今回はキャラが違う。
「熱血モノ」の雰囲気すら漂っている。

妨害するヤクザとすら対決することになった緒方たちに、焼津の親方(丹波哲郎)たちも加勢し、ただでさえ生臭い築地が、とんでもない血生臭いことに。
それにしてもなんで焼津勢は、ここまで築地を助けてくれるんだ…めっちゃ強いし、「あとは引き受けた」まで言ってくれる。
なんでなんだ。

決死の覚悟を決めた磯村松夫(長門裕之)を救うことができなかった江島勝治(鶴田浩二)は、元凶である相手のボス(東京魚市場協同組合理事長・郷田勢之助。天津敏)を追い込み、殺害。
シャツが破れた郷田の腕には、彫り物がありました。

単なる船員だったはずの緒方(高倉健)も、いつの間にか長ドス持って殺し合いをしている。

 

松(長門裕之)を救えなかった失望の中、警官隊により捕縛される緒方・江島。

想いを断ち切るように、お栄(南田洋子)に向かって

お嬢さん。
こいつ(緒方)はすぐに帰ってきますよ。
待ってやってくれますね。

と江島勝治(鶴田浩二)は声をかける。
本当は自分と結ばれるはずだった女に、幸せになってもらいたいという願いから、自分がすべてを背負って獄中へ行こうと決意する江島。切ない。

意気に感ずも 情けに死ぬも
ままよ男が決めた道
たかが五尺の体じゃあるが
明日を夢見て
燃える心が 消されよか

水産局長が汚職で逮捕された新聞記事が映し出され、活気あふれる築地の様子で、物語は終わる。

今回は結局、築地の仕事・魚河岸とは関係のない流れ者の機関士と、戻ってきたヤクザの二人が築地を救ってくれた…ということに。

自分で何かを感じ、命を落とす覚悟をして飛び込んでいったサブと松。
それを無駄にすまいと、ついに立ち上がる緒方と江島。

もう「築地篇」でもよかったんじゃないだろうか。
海ぎわの設定が続く。

 

ーシリーズ11作ー

第1作『日本侠客伝』1964年8月13日公開
第2作『日本侠客伝 浪花篇』1965年1月30日公開
第3作『日本侠客伝 関東篇』1965年8月12日公開
第4作『日本侠客伝 血斗神田祭り』1966年2月3日公開
第5作『日本侠客伝 雷門の決斗』1966年9月17日公開
第6作『日本侠客伝 白刃の盃』1967年1月28日公開
第7作『日本侠客伝 斬り込み』1967年9月15日公開
第8作『日本侠客伝 絶縁状』1968年2月22日公開
第9作『日本侠客伝 花と龍』1969年5月31日公開
第10作『日本侠客伝 昇り龍』1970年12月3日公開
第11作『日本侠客伝 刃』1971年4月28日公開

 







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