/#吾妻鏡
治承4年(1180)8月17日条
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祭りでにぎわう牛鍬大路(うしくわおおじ)を避け、蛭嶋(ひるがしま)通りを進むことを進言する北条時政。これに対し、源頼朝は「大事を始めるのに裏道を使うことはできない」と却下し、合戦ではまず火を放つように命じました。#鎌倉殿の13人 pic.twitter.com/OZM2NVBlGT— 2022年 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」 (@nhk_kamakura13) January 30, 2022
いよいよ源頼朝(みなもとのよりとも・大泉洋)が挙兵を決意。
集められる兵力の少なさに愕然としながらも、まず初戦を勝ち、大義名分を高らかに掲げることによる成功に賭ける流れ、になりました。
初戦と言っても…兵力と言っても…と「言っても」をたくさんつけないといけないほどの脆弱な集団としては、勝つためには「奇襲」しかない。
まともに兵力を相手に揃えられて正面衝突したら確実に負ける、というか潰される。
この時点では源頼朝・北条勢は「叛逆軍」です。「反乱分子」扱いされてしまうので、負けても「勝負した」のではなく単に「鎮圧された」だけになってしまいます。
だから奇襲を成功させて初戦を飾りたいけれど、あまりにコソコソするのは源氏の嫡流としては許されない。
後白河法皇をお助けするという正道・大義の端緒であるという意気込みと表明を、しっかりと明かにしておく必要がある。
ここ、ものすごく微妙ですよね。
負けたら流石に終わりです。
「反乱があってどさくさであのヨリトモ、死んじゃいました!」っていうのは通用しそうですから。伊豆の実力派、伊東祐親(いとうのすけちか・浅野和之)も、貴族である源頼朝はそう簡単に殺せない存在だったのに、さすがにあちらから北条と結託して兵力を向けられてしまうと殺せてしまいます。
で平家の一門からさらに坂東に支配者が送られ、地元の武士たちは苦しい思いをさらに強めることになってしまう…。
兵力を集めるため、土肥実平(どいさねひら・阿南健治)らに対して「お前を一番頼りにしていた」と芝居をするシーンがありました。「あれができる人」というのはどういう人なんだろうと思いますね。「佐殿の腹」はどこまで深く暗いのか。
のちに、弟の源義経(みなもとのよしつね・菅田将暉)が現れる時も、その前に源範頼(みなもとののりより・迫田孝也)が現れる時も、涙を流して肩を抱いたと伝わっているそうです。のちに2人とも殺します。
八重さんの謎
今回は、いやまして八重(やえ・新垣結衣)の存在が大きくクローズアップされてました。
彼女にはまるで自分のことしか考えていないかのような態度の時もあれば、源頼朝を何より想うけなげな場面もある。
なんだか不思議な存在ですが、かつての歴史ドラマならそんなにフィーチャーされることもなかった存在である八重に、なぜ新垣結衣さんがキャスティングされているのでしょう。
親の居ぬ間に手を出され、子供まで作ったけどその子を「源家の血を引く男子」だという理由で殺されて、頼みの源頼朝も特にそれで大きく何か動いたということもなく去って行き、考えてみると悲しいけれど、巨大な物語からすれば、存在感の薄い人と言えてしまう人です。
変な言い方ですが、なんとなく新人の女優さんとか売り出し中のグラビアの人とかで済ませても良いようなポジションのような気すらするのです。
なのになぜ、「主役級(新垣結衣)」がここに。
この謎は、後述します。
鎌倉殿サミットの鬱陶しい京都人
そう言えば2022年1月2日、NHKで『鎌倉殿サミット2022』が放送されていました。
鎌倉殿サミット2022
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P202100271800000/
議題は…
「源頼朝 死をめぐるミステリー」
「頼家は暗君だった!?」
「実朝の死に北条氏の暗躍はあったか」
など。
パネリストは中世研究の学者・作家。
司会は爆笑問題。
ここに出演されていた井上章一さん、私も何冊か著書を読んだことあります。
地道な研究で新たに得られた知見・驚きの発見から見えてくる真実などを2022年、大河ドラマにも盛り込もうと努力されている坂井孝一氏などを尻目に、この井上氏が恐ろしく古臭い「一般的鎌倉幕府イメージ」でうすら寒い笑いを取ろうとしている場面が各所に散りばめられた、汚泥に脛まで浸かったような小寒い感覚を得られた以外は、非常に楽しく拝見しましたです。
鎌倉幕府を「広域暴力団 関東源組」と言ってみたり北条政子の、源頼朝死後の様子を「極道の妻」と言ってみたり。これ、著名なおじいさんがニヤニヤしながら「面白いでしょ?」みたいな空気を出しつつ語り出したら周りは雰囲気を壊さないように、先生の機嫌を損ねないように、頬の筋肉を引き攣(つ)らせて笑わざるを得なくなるやつ、です。
井上氏はこういう「うまいこと言う」を「面白い」と勘違いして普段から周囲の愛想笑いを粗製濫造してらっしゃるんでしょう。最前線で実地の研究をなさってる先生方はとにかく苦笑・苦笑の連続。内心は嘲笑でしょう。理性的に対応されている様子から逆に、その苦々しい思いと失望が画面から伝わってくるようでした。
古臭く勝手なイメージをさも面白いかのように京都弁で「これが世間の声だ」とばかりに語る井上氏(議論を引っかき回すだけのその源実朝と和歌に対する偏見)に対し、坂井孝一氏(『鎌倉殿の13人』の時代考証も担当)は「もちろんそれに関する反対意見というのは、出席者の中にもいらっしゃると思います。私も、その1人です。」と、とても柔らかく、誰ひとりカチンと来ない婉曲な言い回しで反論(正論)の口火を切られました。こういうことできる人、ほんとにすごいと思います。
京都人のいやらしさ、と言うと語弊があるのでそんなつもりはないんですが、京都の人のいやらしさって(もう言ってしまった)、「京都以外の街のことを悪く言っても許されると思い込んでるフシがある」っていうところなんです。
何度も、さも「面白いでしょ?」っていうニュアンスと間で言うから愛想笑いを誘発してましたが「鎌倉はこわいところだなぁと思います」という部分、それ自体ぜんぜん受け入れられてないし、40年とか50年前から言われてる固定的で勝手なイメージだけで笑いに変えられると思ってる浅はかさはとても醜悪なものでした。「京都人には京都を含めて、全ての日本の都市を貶める発言をしても笑いに変えられる」という京都人の奢り、傲慢さが随所に垣間見えました。「学説が地場産業になってる」発言も、先生方はいっさい笑ってません。顔すら映ってません。放映できる表情ではなかったんでしょう。プロである爆笑問題さんが空気に合わせて、機嫌を損ねないように「笑い声」を出してるだけです。
最後は反省したような言で終わっていらっしゃいましたが「すべての発言を反省して終わる」というのは、自身の最終発言に対し、周囲が笑わずには逃げられなくなるように「笑わせるための自虐オチ」だと感じさせるテクニックの一つなのです。「最後に笑いを取った人」としておおわれる。長年の経験に裏打ちされた京都人のいやらしさ、まさに炸裂でした。
脱線終わり。
2022年1月29日、東京の東大和ハミングホールというところで、坂井孝一氏の講演がありました。
行ってまいりました。
東大和ハミングホール
当日券出してる場合じゃないぜ。
聴かなきゃ損だぞこんなの。
先述の通り、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証をされている先生なので、裏話・ここからは言えない的な話もたくさん盛り込まれた90分、とてもおもしろかったです。
客席は老人ばかりでしたが。子供は寝てた。
後半、「ある仮説を立てている」というお話をされました。
坂井先生がこの講演のために作成してくださったrésuméの該当部分。
そう言えば北条ヨシトキと八重の、ドラマ内でのいやに濃密なやりとり。
そして配役に新垣結衣さんという、主役級の女優さんを起用しているという事実。
これは、今後も主役級の2人が画面に映る場面が増えることを示唆しています。
源頼朝を慕い、追うように自ら命を絶ったという伝説もあるようですが、坂井先生は「この時代の女は、そんなことで死なない」と断言。
つまり三谷幸喜の脚本は、坂井先生の仮説を取り入れているということだと思います。
北条ヨシトキの嫡男・金剛(のちの泰時)は、八重との間に生まれたと。
昔の事情(源頼朝と八重との関係)も知っている北条義時と結びつけるのが、全体としてデメリットも少ないというような北条政子(ほうじょうまさこ・小池栄子)の考えだったのかもしれませんね。嫉妬と計略が得意そうな北条政子も、それならなんとか納得できたラインだったということか。
ドラマでは最初から「ヨシトキの初恋の人」扱いになってましたが、紆余曲折あってその願いが叶うことになるという。
なんで新垣結衣さんが八重さんなんだ!?と、歴史に詳しい人が首を傾げていた謎は、そういうことだったんですね。
タイトル通り、「矢のゆくえ」のたどり着くところ。
戦闘の口火としての矢、そして恋慕と葛藤が放つ矢。
NHK大河ドラマ #鎌倉殿の13人 では源頼朝が山木兼隆の館への襲撃を開始しました。月岡芳年は「月百姿 山木館の月 景廉」でその戦いの一場面を描いています。こちらの作品、どのようなシーンなのかは、次週ご紹介いたします。※現在展示していません。 pic.twitter.com/ZSwqRyIPx7
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) January 30, 2022
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そう言えば2013年の大河ドラマは『八重の桜』でしたね。
武士の世が始まる時に生きた八重。
武士の世が終わる時に生きた八重。
合わせて16重。