「転売ヤー」という言葉が当たり前に使われるようになっている昨今、です。
「転売」に「屋」をくっついた「転売屋」。
ここに英語の「バイヤー(buyer)」が混ざり込んだ形ですね。
上手いことできとる。
同じ音でも「転売家」だとなんだか強い思想のようなものを感じます。
バイヤーとは、いろんなところで商品を買い付ける仕事をしてる人のこと。
「バイ(buy)」は「買う」ですけど、自分のために買うんではなくて、売るために買う。
仕入れる人、っていうことですかね。
日本語ではなぜか売買(ばいばい)、売ると買うが同じ音で、そこに「市場の循環性」すら感じます。売ることは買うことだ、みたいな。意味的にはやっぱり正しい感じがする。
バイヤーのお仕事名には「売れるものだけを買う」っていうニュアンスも含まれます。
だから目利きの能力も絶対にいるし、価格の交渉もできないといけない。
世界を旅して買い付けて来て、日本のお客に新たな価値観を届ける。
あるいは日本全国の美味しいもの・特産物を直接食べて買い付けて、有名な店やネットで販売する生産者の救世主ともなり得る。
「麻薬のバイヤー」となると、そこには「ヤバイ」の逆さ読みも練り込まれてる感じがしますけど。
当然「利益」が乗ることが前提です。
安く買って高く売る、は商売の基本ですよね。
逆だと2秒で潰れるから。
2020年にはマスクの供給が不足して、その分、転売を試みる輩が出てきました。
店頭前から2時間の行列…なんていう光景を、何度も実際に見ました。
ほんとひどかった。
転売だけじゃなく「とにかく毎日時間のすべてを使って並んで、家に置いておく」という人もたくさんいました。トイレットペーパー、消毒液…。
厚生労働省・経済産業省・消費者庁が転売を規制する事態に。
マスク転売規制についてのQ&A
https://www.pref.gunma.jp/contents/100145379.pdfQ.3-2 マスクの転売行為が全て禁止されるのですか。
<答>
マスクの転売行為が全て禁止されるわけではありません。規制の対象になるのは、①小
売店舗やEC サイトなどから購入したマスクを、②購入した金額よりも高い価格で、③イン
ターネットや店舗などを通じ不特定又は多数の者へ転売することが禁止になります。
この規制・禁止は夏頃、解除されました。
2021年になったらマスクはもう充分な供給量があるので、たとえ転売したとしても一切売れません。
マスクの場合、医療・病気に関わることで国全体に及ぼす影響を考慮して、規制されたんですよね。
引っかかるのは、じゃあ他の物はなぜ規制されたりしないんだろう、っていうところ。
「本当に買いたい人が買えない!」という怒りの声もよく聞きますが、その場合の「本当に買いたい」ってなんなんでしょう。
人気アーティストのチケット高騰問題もたびたび話題になったりします。
文化庁
チケット不正転売禁止法
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/ticket_resale_ban/index.html
こういうのを書くと「お前は転売を容認するのか(怒)!?」と言われてしまいかねないので困るんですけど、今回言いたいのは「怒る方向、間違ってないですかね?」というところなのです。
問題はルールか、マナーか。
たとえば限定1,000個、これってモノによってはすぐ無くなります。
発売30分後から、メルカリやヤフオクに並び始める高額転売…。
例えば1,000円のものが、20,000円になってる!!
高い!買えない!本当に買いたい人が買えない!!!
…この感じで怒られると、上に書いた「本当に買いたいって何??」という疑問が頭をもたげて来ます。
本当に買いたい人は20,000円でも買うんじゃないの?と思うと同時に、本当に買いたい人は限定1,000人以内に必ず入るべく努力するものなんじゃないの?と思えてしまうからです。
前にあったんですけど、公開から2週間経った人気映画について数人で話題になった時に「言わないでくれ!ネタバレしたくないから!」って怒られたことがあったんです。
うん、気持ちはわかるんですけど「ネタバレしたくない!」と思うほど(他人の強要するほど)に好きなのに、なんで2週間経ってもまだ観てないの??っていう疑問、やっぱり出てきて鼻白んだんです。
限定1,000個、「本当に好きな人順」に買えるわけはなく、それ相当の努力をしてしまう(儲けるために)転売ヤーに買われてしまうこと、これって、根本的には今、防ぎようがないんですよね。
転売目的のご購入は禁止します、と店側は対策してくれてたりもしますけど、「いや、私は本当に欲しいのです!まじです!だから知り合いに頼んだりバイトを雇っててでも、1,000個のうちの500個を確保したいのです!」という理屈で話されたらどうやって止めるんでしょう。
「私の本当に欲しい」気持ちはあなたたちの500倍!愛も500倍!そのために家も田畠も家族も全て売ってきたんです!って言われたらどうしましょう。
その後、「あ…でもなんだかだんだんそんなには欲しくなくなっちゃったかも〜手元にあってもしょうがないから出品しようかなぁ〜」っていうしゃあしゃあとした理屈を、止めることを誰ができましょうや。
そうなると、だんだん転売について語られる時、「マナー」とか「常識」とか「モラル」とか「倫理」ということが話題になっていきます。
転売ができる仕組みとか、売る/買うという構造じたいの問題から、気持ちの問題へといつの間にかシフトしていくんですね。
ここが今回、重要なところです。
転売自体は悪いことではない、と擁護する側の人に対して、飛びかかるように非難を浴びせる人は大抵「モラル」を問題にしています。
「本当に買えない人が買えない!」も、これに相当しますよね。
転売ヤーの理屈らしいw
あんたらが買わなければ、その分定価で買える人がいるんですよ需要と供給は関係ない。
まだガンプラは数ヶ月~半年で再販されるけどコレクターズトイとコトブキヤプラモは再販しないからね、解禁日に予約失敗すると、もう買えない悲しみ(´・ω・`)#転売ヤー撲滅 pic.twitter.com/DWSSC8wKkB— TポリスのModelers CH (@haneraven) October 28, 2020
よく見ると「転売ヤーの理屈」と「一般人が手にできない」は、問題が2つ、混ざってしまってるんです。そのうち、「再販しない」もポイントの一つ。
1,000円のものが20,000円になったとしても「あら、20倍」とだけつぶやいて買って家計になんのダメージもない人らにとっては、2時間並ぶよりも経済的かもしれないんですから、転売はありがたい仕組みなんです。
たいてい金持ちは、文句言わずにスッと買うだけなので表面化しません。
貧乏人には掲げるものがモラルしかないので「本当に買えない人が買えない!」で戦うしかない。
そしていつしか金持ちvs貧乏人の戦いになっていく。
やがて「こんな社会に誰がした」という話になっていく。
そうやって、いつの間にか、消費者同士で争うことになっているんです。
これ、どこかで見た構図だなぁ…と思って眺めてたんです。
痴漢冤罪問題に似てるぞ?
痴漢の冤罪、が大きな大きな話題になったのは、いつの頃だったでしょうか。
まず、どうしようもないレベルにクソッタレな、痴漢ヤロウがいる。
これはもう、いる。
でこの痴漢と間違われて逮捕され、そのまま拘留されて帰れないまま2年とかいう「痴漢冤罪」が存在する。仕事もクビになり縁談は破談になり、「やってるはずだ」の予断にだんだん、やったんじゃないかと自分でも思い始める。「認めたら出してやる」と言われて、嘘の供述をしてしまう人すらいる。
「痴漢冤罪、許すまじ!」な態度を表明すると、なぜか「痴漢がいるから起こることであって、痴漢が悪い。痴漢許すまじ」という人と、対峙する感じになっちゃうんです。
冤罪を擁護することは、本当の痴漢を擁護するに等しい、と受け取っちゃう人がいるんですね。
痴漢ヤロウは今日もどこかで被害者を産み続けてるんですけど、「痴漢許すまじ」と「痴漢冤罪許すまじ」が、対立関係になってる感じになる。これって絶対おかしい。
もちろん、当たり前ですけど悪いのは痴漢ヤロウです。
よく、痴漢で逮捕された犯人の「仕事のストレスでやってしまった…」って供述をニュースで聞きますけど、その仕事すべてに対する侮辱だなぁと思います。嘘つけこのヤロウと思うのと同時に、「この仕事をやってストレスが溜まると、痴漢します。そういう類の、仕事です」って言ってるようなもんですからね。
変態痴漢ヤロウは路上にもいますから、痴漢という行為自体は憎むべき犯罪とは言えこの地球上で、事前には防ぎようがないところがある。
だけど「なぜ、痴漢冤罪が起こるのか」を考える時、とても重要なのは「どこで、なぜ、起こってるか」を考えることだと思うのです。
「痴漢が」ではありません、「痴漢冤罪が」です。
冤罪は、「満員電車だから」起こってるんじゃないでしょうか。
何度も繰り返しますが、そもそもの原因は痴漢ヤロウです。これは基本。
満員だろうがどこだろうが、痴漢は起こります。
だけど、満員電車じゃないと、冤罪は起こらない。
冤罪のような「やってないのにやってるヤロウと同等に扱われてしまう」のは、ギュウギュウの満員電車の状態が放置されてるから」ですよね。
閑散とした路上でも痴漢は起こるでしょう。
痴漢ヤロウは、やるときはやるでしょうし。
だけど、閑散とした路上で、「痴漢冤罪」は起こらない。
なんで起こらないの?
ギュウギュウじゃないからでしょう。
何が言いたいかというと、「電鉄会社よ、全車両にカメラをつけろ」ということなんです。
撲滅すべきは「痴漢」です。
だけど痴漢は、クソ卑怯なヤロウがやることなので、地球上で全部は止められない。
だけど「痴漢冤罪」は、電車内で、起こらないようにはできるんです。
無実であることが証明できればいいんだから。
痴漢冤罪に苦しむ人は、満員電車の中での位置関係などを証明するために、ものすごい苦労と努力をするそうです。
車両内に監視カメラがあるだけで、それがすべて解消されるんです。
電鉄会社は、「痴漢なんて大した問題じゃない」って思ってるんです。
痴漢なんてチンケな犯罪が起こったって、ましてや冤罪なんて起こったって、知ったことではないって考えてるんですね。だから車両に、基本的に監視カメラはつけない(実は、徐々に増えて来ています)。
そもそも毎日、何十年も凄まじい満員具合を続けてても平気なんですから、電鉄会社が痴漢を助長してるわけでしょう。被害者を侮辱し続けてるのは、電鉄会社です(実は、徐々に増えて来ています)。
つまり、痴漢・痴漢冤罪について怒る人が、怒りを向けるべきは電鉄会社なんじゃないでしょうか。
お前らの施設が不十分で、対策がゼロのせいで「痴漢冤罪」が起こってるんだぞ!と怒らないといけない(実は、徐々に増えて来ています)。
なのになぜか「痴漢冤罪を憎む」グループと、「痴漢をする男が悪い」グループが対峙してるかのような構図になっている。
うまく、標的がずらされてるような気がしてくるのです。
JR東日本ニュース
鉄道車両内におけるさらなるセキュリティ向上について
https://www.jreast.co.jp/press/2018/20180703.pdf鉄道新聞
どのくらい映る?
電車の蛍光灯が防犯カメラに その仕組みは?東急電鉄を取材
https://tetsudo-shimbun.com/article/topic/entry-2821.html株式会社アルコム
痴漢防止目的で電車内に防犯カメラを導入
https://www.arucom.ne.jp/security_column/useful_column/tikan.html
話を転売に戻しますとそもそもの原因は、限定1,000個であること、なんじゃないでしょうか。
本当に欲しい人が買えるには、10,000個作ってくれれば問題なかったのかもしれない(余ったらどうするの?)。
さらに無茶を言えば、そもそもの値段が100円であれば、10倍になっても1,000円なので家計を痛めず、もし転売されてても買えたのかもしれない(利益はあるの?)。
「メーカーが再販してくれない」ことが、レア度を上げて中古価格が高騰する理由だったりすることはもう当たり前に皆さん知ってることですよね。
メーカーだって、見込みが立たないと安易に再販なんてできないという事情があるでしょう。
「限定○個」で話題が欲しいというところもあるでしょうし、「即完」の2文字が欲しい場合もあるでしょう。
転売が成立するのは数が足りないからであって、その場合に値段が高くなる、これって道理としては健全です。
「転売は悪徳で、あってはならない倫理上の行為」なのであれば、それを解消するには「そもそもの供給元が、数を絞って販売することの是非」が問われないといけないんじゃないでしょうか。そして家電などで「オープン価格」などと定価を定めずに販売することの是非、も討議されてしかるべきでしょう。
「定められたルート以外での転売そのもの全て禁止。メーカーが定めた定価以外での転売はその全てが犯罪です」と、法的にならないのはどうしてでしょう。
それは「安くでも売って欲しい」場合があるというメーカー側の都合が、最初からそこに織り込まれてるからではないでしょうか。
多くの人が怒ってるのは「高額転売」であって、「定価転売」及び「低額転売」には怒ってないですよね。
ということはやっぱりおかしいのは供給側の都合を全て受け入れるしかない構造そのものであって、転売ではないのでは…と思えてきてしまうところではあります。
「欲しい人の機会を奪う転売ヤー、許すまじ」という正論の中には、幾重にも折り重なった違う事情が、隠れているような気がするのです。
半ば強引に転売と痴漢を並べてしまいましたが、どうも本当は共闘すべき人らを仲違いさせて、笑ってる連中がいるような感じがします。
前に書いた、このエントリも結局、似たようなことなんですよね。
作家さん達からしたら「古本買わないで!新品じゃないと印税が入らない!」と嘆くし、消費者は「古本の方が安いんです!」と叫ぶ。
「古本市場の隆盛は創作現場そのものに影響が及ぶ!」なんて懸念も言われたりしますが、その時、黙って遠くで腕組みしてる人ら(組織)がいるでしょう。
バーコード管理の世の中なんだから、古本買っても作者に還元されるような仕組みを作ろうとしないのは、誰ですか???
なんで安く売ってることを由として買ってる消費者に、業界の存亡がかかってるとか、ケツ持ってくるわけ??
…なんだか、支配者によって被支配者を仲違いさせて治安を悪くさせて統治する、ヨーロッパ列強の植民地のやり方を思い出してしまいました。悲しい。