第7作目。
舞台は東京・深川。
とうとう「死んで貰います」と言い出しましたね。
これは「死んでもらうぜ」という主人公・花田秀次郎(高倉健)の決め台詞から来ています。
「死んでもらう」って不思議な言い方ですけれど、主人公は義理とか怒りとかで、自分の私怨だけじゃなく仇敵を倒す、という境遇に見舞われるんです。なので「殺してやる!」とか「死んでくれ!」とかではないんです。
「死んで貰います」はこの微妙な「立場」を、繊細に表していると言えますね。
大正時代。
キャスケットにジャケット・パンツスタイルの若者・花田秀次郎は、博打場での喧嘩で刑務所へ。
実家から離れてヤクザになって、その末の服役でした。
育枝(長じて育多楼に改名・藤純子)の親切のきっかけを、刑務所内からお礼を送る秀次郎。
いつも出てくる風間重吉(池部良)はどこにいるのかというと…。
勘当された花田秀次郎の実家は料理屋「喜楽」。
そこで板前をしている風間。
おそらく風間は流れ者の、腕っぷしの強い元ヤクザなんですね。
花田秀次郎とは言ってみれば、血はつながっていないが兄弟のようなもの。
服役中の大正12年、関東大震災が発生します。
刑務所の中で、実家はどうなったのか…と心を砕く花田秀次郎。
秀次郎の出所。
今回は、木場の勢力争いがベースになっています。
昔から仕切っていた寺田組。
そこに、震災後、新興勢力となった愚連隊・駒井組。
秀次郎の実家の「喜楽」の婿養子に入った若旦那の武史(松原光二。ほんとの若旦那は秀次郎なんだけど)が、相場に手を出して駒井組から金を借りているという、厄介が乗っかって来ます。それは「喜楽」乗っ取りの計略だったのです。寺田組が後ろ盾になっている「喜楽」を乗っ取ることで、縄張りを奪って行こうという駒井組の狙い。
さらに育多楼(藤純子)が駒井組の組長に狙われる。
父親と妹が死に、実家の料亭で、視力を失っていた義母には黙って、秀次郎は偽名を使って実家の板前として働くことに。
もはやカタギとしてのストーリーになっていきそうな感じに…。
この作品での注目は、もう一人の主役・ひょっとこのマツ(長門裕之)だと言ってもいいでしょう。なんというか、バイタティにあふれる活力。なんというか、セリフ回しや表現力の軽妙洒脱さ。どこまでがアドリブなのかなんなのか、冷静で重厚な秀次郎(高倉健)との対照となって、その魅力が弾けております。
背中の彫りもののせいで、家から離れた銭湯へ通う秀次郎と再会したマツ。
さらに、4年前のあの博打場での喧嘩で手を刺した、権藤熊次郎(山本麟一)とも再会します。
せっかくカタギになったのに、「足を洗えない」と悩む秀次郎。
自分だけカタギになっても、これまでの喧嘩や出入りで恨みを持った連中がたくさんいるので、料理屋や育多楼(藤純子)に迷惑がかかると出て行こうとするんですが、現れたマツを引き込んで、うまくまとめる巧妙な風間重吉(池部良)。
そうこうしているうちに、ビジネスマンぶっている若旦那の武史(松原光二。ほんとの若旦那は秀次郎なんだけど)が、「喜楽」の権利書を持ち出して一発逆転しようと焦っています。忠告も無視して相場に傾倒した甘ったれた婿養子。借金のカタに駒井組に手玉に取られ、追い込まれてしまいます。
風間重吉(池部良)は権利書を買い戻すため、寺田組長(中村竹弥)に無心しますが、寺田組長が間に入ってくれます。ところが駒井組からするとこれは格好のトラブルの種。法外な「船二艘」という条件を出しますが、これも寺田組長は受諾。よくわかりませんが、屋形船だとしたら相当な額ですよね。1000円が1億円だとして、プラス船二艘でさらに1億、しめて2億円というところでしょうか。
なのに寺田組長は帰り道、駒井組がヒットマンとして雇った観音熊(権藤熊次郎。山本麟一)によって、殺されてしまいます。
悪辣なる組織・駒井組の、凶悪なる実力行使のせいで、事態は深刻化。
寺田組長の命と引き換えに、権利書は帰って来ました。
風間重吉(池部良)にしてみれば、巻き込んでしまった重大な義理が発生。
駒井組へ殴り込まなければならなくなります。
今や料理長がなんでそういう行動のみの選択肢になるんだ…とは思いますが、とにかく緊急事態です。
花田秀次郎(高倉健)はその事情を知り、共に行こうと決意します。
育多楼(藤純子)は
止めやしません
だけど
死なないでください何年でも待っています
今度はお願い
あたいだけの
義理に
情けに
生きて欲しい
と嘆願します。
マツ(長門裕之)の助勢も断り、独りで現場に向かいます。
ここでテーマソングが。
白を黒だと言わせることも
しょせん畳じゃ死ねないことも
百も承知のヤクザな稼業
なんで今さら悔いはない
ろくでなしよと夜風が笑う
小さな橋のたもとで、風間と合流する花田秀次郎。
ここで、カタギの風間を巻き込むわけには…と秀次郎は止めるんですが、風間重吉は寺田親分に義理があり、ここでこそ、復讐する資格があるのだと主張します。
そして
ご一緒、願います
という、有名で流行語にさえなったセリフが出て来ます。
共に殴り込みに向かう二人(これを道行・みちゆきと呼ぶ)。
親にもらった大事な肌を
墨で汚して白刃の下で
積もり重ねた不孝の数を
なんと詫びようかお袋に
背で泣いてる唐獅子牡丹
こんばんは、と殴り込みを開始した時点で、あと5分30秒しかない!
間に合うのか!?(ぜったいに間に合う!!)
屋敷の中に乗り込む二人。
バッタバッタと組員を切り殺し、組長・駒井を庭に追い落とす。
割と強いんですよね、ラスボス。
ここで、演出として、斬り損ねた秀次郎の刀が木にあたり、枝が落ちる。
そして後ろから斬りかかられた着物が切れて、はだけて、「唐獅子牡丹」が見える。
それにしても長刀を持っている花田秀次郎(高倉健)に対し、割といつも短刀で大人数に対峙する風間重吉。だから毎回殺されるんじゃないか。
槍で突かれ、返り血を浴び、そこそこの重傷を追いながらも駒井組長を切り伏せ、やっつけた秀次郎。
すでにこときれている風間重吉(池部良)に愕然とし、雨の中、縛につく秀次郎。「終」。
今回はなんだか、ゆっくりとストーリーが進みながらも、なんだか「経済的な事情」だけでラストの大凶行に至っているという印象があります。
まだ、なんとかなったんじゃないの…!?と思えてしまうというか。
駒井組、あそこでいくら商売敵だとしても、寺田親分(中村竹弥)を殺すのは良くない。だって他の仁侠団体との兼ね合いもあるし、1000円と船二艘も手に入れ損ねてるし。
今回にまつわる「死んで貰います」と「ご一緒願います」は、このシリーズの象徴と言ってもいい言葉なんですね。興行成績としても、この『昭和残侠伝 死んで貰います』が一番だったそうです。
この作品の公開は1970年。昭和45年です。
昭和40年代に、大正末期〜昭和2年(1927年)くらいを描くということは、単純計算ですが2020年からすると1977年(昭和52年)にさかのぼるようなもの。
もしそんな映画ができるとしても、タイトルは「昭和残侠伝」になってしまいますね。
昭和って長い。
ーシリーズ9作ー
第1作『昭和残侠伝』1965年10月1日公開
第2作『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』1966年1月13日公開
第3作『昭和残侠伝 一匹狼』1966年7月9日公開
第4作『昭和残侠伝 血染めの唐獅子』1967年7月8日公開
第5作『昭和残侠伝 唐獅子仁義』1969年3月6日公開
第6作『昭和残侠伝 人斬り唐獅子』1969年11月28日公開
第7作『昭和残侠伝 死んで貰います』1970年9月22日公開
第8作『昭和残侠伝 吼えろ唐獅子』1971年10月27日公開
第9作『昭和残侠伝 破れ傘』1972年12月30日公開
…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。
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