見たもの、思うこと。

十二国記を読む

華胥の幽夢 十二国記 (新潮文庫)

『魔性の子 十二国記』
『月の影 影の海 十二国記(上・下)』
『風の海 迷宮の岸 十二国記(上・下)』
『東の海神 西の滄海 十二国記』
『風の万里 黎明の空 十二国記(上・下)』
『丕緒の鳥 十二国記』
『図南の翼 十二国記』
『華胥の幽夢 十二国記』
『黄昏の岸 暁の天 十二国記(上・下)』

 

経緯

そういうことがたまにあるんですけど、急に、なんの前触れもなく、突然に、脈絡なく、前情報も何もなく、『丕緒の鳥』を買ったんです。

ジャケ買い、みたいな感じで。タイトルも、なんて読むかもわからないのに。
なんでなんでしょう、自分でもこれは不思議です。

で読んでみると、なんだかわけがわからない。
歴史モノ?ああ、ファンタジー的な…と途中で気づく感じ。
それくらい、「当たり前」感が漂っていました。
設定や、世界観が「当たり前」な感じ。
つまり「続きものなのか?」っていう。

設定とかが当然のように出てくるので、ああ、読者はすでに知っているんだな、という感じ。

だけど、それにしても。
いやひょっとしてこの設定、この世界観、この物語、めちゃくちゃ面白いんじゃないか…??

と思って、全作買いましたw

私が最初に読んだ『丕緒の鳥(ひしょのとり)』は、オリジナル短編集、だったのです。
『魔性の子』から読み始めるのが正しい。

架空の中国(?)を舞台にしたような、本当に緻密で、確立された世界観のファンタジー。
天命を受け、王を麒麟が選ぶ。

いわゆる「異世界転生モノ」と言えるけれど、世界の隅々までほんとはぜんぶ決まってる感がすごくて、それはつまり世界観がちゃんと構築されてるってことなんですよね、だからよくある「異世界モノ」みたいに、主人公まわりの物語だけが派手に都合よく進んでいく、っていうそれだけに感じない。

こうしている間にも、例えば「慶国」のことを描写しているうちにも、他の国では…
蓬山では…と、同時進行している感じが伝わってくる。

『丕緒の鳥』はまさにそれで、同時に12の国のことを順番に書いてあるわけではなく「慶国」に流れ着いた主人公・陽子のことに偏りがちではある本編と違って、「その国の、下層の人々の様子」をわざわざ4編も精密に描写してあるんです。

これは「そちらに目を向けると、そりゃそういう物語があるわな…」と如実に思わせてくれるし、作者の小野不由美さんには、いったいこの世界がどういう風に見えてるんだろう…と驚愕せざるを得ません。

 

心配なことだらけ

漫画「ベルセルク」もそうですけど、「あ、これ、自分が生きてる間に終わらないな…」と予感させてくれる作品て、ありますよね。

「十二国記」もそうで、未だにあんまり描写されてない国もあったりするし(舜とか)、あのあとあの人ら、あの麒麟(戴の泰麒)はどうなったんだろう…という続きも気になる。

もう、気になることだらけ、心配なことだらけでw、それがこの作品の人気の秘密なのかもしれない、とすら思いました。

この作品には、ファンタジーものにはよくある事かもしれませんが、「子供の頃に読んだら、倫理観の一部を形成するのに役に立つだろうな」と感じるやりとりが出てきます。

違う世界の、異界の住人たちなんだけれどもそれだけに、彼らが話す内容、考える哲学、市井の人々の姿勢、などには、「そうか、そうだったな」と現実を顧みるに値する内容が含まれます。

そんな倫理観や思考法、あって当たり前の考え方までを含めて構築されている世界、なんだと思うと、ほんと(2回目)、作者の小野不由美さんには、いったいこの世界がどういう風に見えてるんだろう…と驚愕せざるを得ません。

最初に私が手にした『丕緒の鳥』には、短編が4つ。
その中の「落照の獄」にも、それはありました。
落照、とは落日。傾きかけている国の中で、司法官である瑛庚(えいこう)は、凶悪な殺人犯に対して死刑を宣告するのか。死刑とは。人が人を裁くとは。治安とは。法とは。国とは…。普段、考えようにもうまく考えられず、思わず逃げてしまっているような議題が、読者には突きつけられます。

 あるときに、率由(そつゆう)は民の不安を挙げて殺刑を主張した。
「民は不安なのでございます。国の治安が乱れている。乱れた世を正すため、刑をもって刑を止めることが必要なのではございますまいか」
以刑止刑ーーーすなわち、一人の犯罪者を厳罰に処して他の犯罪を未然に防ぐことを言う、これに対して如翕(じょきゅう)は、厳罰には犯罪を抑止する効果のないことを、他国や自国の事例を挙げて訴えた。
それでも、と率由は主張する。
「殺刑を用いることで治安が悪化するわけではございますまい。確かに殺刑を持って犯罪を未然に防ぐことはできかねますでしょうが、殺刑はむしろ罪なき民のために必要なのでございます。狩獺(しゅだつ)のような罪人は必ず殺刑に処せられる。左様に思えば、民はそれだけ安心することができましょう。人を殺めれば殺刑ーーーその威嚇力が、民の安寧のために必要なのでございます」
「民が安心を求めていることは分かる。乱れた世相に怯えていることも承知している。だが、そもそも犯罪が増えているのは、国が乱れ、人心が荒んでいるからでしょう。つまりはーーー言いたくはないが国が傾いている。国の傾きは刑罰では止められません。むしろ百害あって一利もない。ここで殺刑を復活させることは、傾いた国に殺刑の濫用を許すことに繋がります」
「それを防ぐことが、司法の責務でございましょう。民を安んじ、民を守るために司法があるのではございませんか。民を安んじ慰撫するために殺刑を用い、民を守るために濫用を留めるーーーそうでなくてどうするのです」

『丕緒の鳥 「落照の獄」」』

率由、如翕、狩獺は人の名前。「架空の中国」とも言える舞台設定なので、漢字ばかりが出てきます。だけどご安心を。このシリーズの素晴らしいところは、フリガナが随所に、惜しみなくふられていて、すごく読みやすいところなのです。忘れそうになった頃には、何度となく同じ漢字にフリガナを振ってくれています。なので「えーと、これって誰だって、なんて読むんだっけ」と、いちいち戻らなくて済む。それだけ物語やテーマが、スッと頭に入ってくるんです。

 

ああ、そうだなぁ…と強く思ったのはこのくだり。

「人間って、本当のことを言われると怒るんだよなぁ」
「…出ていきなさいよ」
「誰でも同じだって言ったのがそんなに気に障ったのか?おれ、間違ったこと言ってないぞ。家に帰れないやつなんか、いっぱいいる。みんな辛い。ねえちゃんだけが特別辛いんじゃない。そんなことも分かんないから、嫌われるんだぞ」
「なによーーーあんたなんか、大っ嫌い!」
鈴はこらえきれずに泣き崩れた。
真実だから胸に痛い。この世界で会った誰もが鈴のことを好きではなかった。誰ひとり、理解してくれなかった。哀れんですらくれなかった。
ーーーどうして?
「どうしてみんな、あたしに辛く当たるの?洞主(どうしゅ)さまも、あんたも、どうしてあたしを虐めるの?あたしがなにをしたっていうのよ!」
「洞主さま、ってーーー」
「翠微洞(すいびどう)の洞主さまよ。才国の」
鈴はまくしたてた。梨耀(りよう)がどれほど残酷な主だったか。どれほど辛く、それを精いっぱい耐えてきたか。采王に助けられ、助けられたと思えば追い立てられ。ーーーこんな子供に、言ったところでどうなるものでもないのに。
「しょーがねえなぁ。…ねえちゃんって、おれよりガキ見たい」
「…なによ」
「ねえちゃん、自分が好き?」
え、と鈴は目を開けた。
「自分のこと、いいやつだって思う?」
「あまり好きじゃないわ…」
こんな惨めな自分なんて。
「だったら、他人がねえちゃんを嫌うの、当たり前だと思わないか?しょせん人間なんて、自分が一番、自分に甘い生き物だろ?」
鈴はぽかんと口を開けた。
「その自分ですらさあ、好きになれないような人間を、他人が好きになってもらうなんての、ものすげー厚かましくないか?」
「そんな意味で…」
鈴は慌てて言い添える。
「そんな意味で言ったんじゃないわ。ーーーもちろん、好きよ。決まってるじゃない。でも、誰もそうは言ってくれないんだもの。誰も好きになってくれない自分は好きじゃない。ってそういう意味よ」
「そんで?じゃあ、好きになってくれない相手が悪いんか?だから、態度をあらためて好きになれって?それってさらに厚かましいな。だから嫌われるの。以上、終わり」
「あたしはーーー」
鈴は両手を握りしめた。
「あんたには分からないわ!だってあたしは海客なんだもの…!あたしが海客で、こちらの人とは違うから!だから意味もなくあたしを嫌うんじゃない!」
「おれ、お前みたいなやつ、大っ嫌い…」
清秀(せいしゅう)は溜め息をついた。
「おれ、そういうの、やなんだよ。人よりも不幸なこと探してさ、ぜーんぶそれのせいにして居直って、のうのうとしてるのって」
鈴は喘いだ。眩暈がするほど、この年端のいかない子供が憎い。
「ばかみてぇ。ねえちゃん、単に人より不幸なことを自慢してるだけじゃねえの。べつに不幸じゃなくても、無理やり不幸にするんだよな、そういうやつって」
「…ひどい、ひどい!」どうしてそこまで言われなきゃいけないの?あたし、こんなに辛いのに!!」
「辛いことがあると偉いのか?辛いことがあって、辛抱してると偉いのか?おれなら辛くないようにするけどな」
清秀が首をかしげる。
「海客でなきゃ、辛くないわけ?ねえちゃん、仙人で、病気もしなきゃ歳もとらないわけだろ?病気で苦しんでるやつのところに行ってさあ、それ、言える?仙なら食うものに困ったことなんてないだろ。今にも飢え死にしそうな人のところへ言って、自分が一番不幸だって言えるのか?」
「あんたに言われなくないわ。ーーーあんたは恵まれてるから、そんなことが言えるのよ」
「おれ、恵まれてるかなぁ」
「こちらで生まれ育って、家族に囲まれて、帰る家があって」
「おれ、家、ないよ」

(中略)

「ひとりなのはあたしも一緒よ。あんたは恵まれてる。最後まで家族といられたんだから。あたし、あれきり家族には会えなかったの。もう二度と会えない。むこうがいまどうなってるか知らないけど、父さんも母さんも、きっともう死んでるわ」
「だから、おれも同じだってば」
「同じじゃないわ。死に目にあえただけ、あんたは幸せなの。あたし、ふたりを看取ってあげたかった」
「かあちゃんは、まあなあ。…けど、とうちゃん、妖魔に食われたからな。あんな死に目はあんまり見たくなかったなぁ」
「それでも、最後までそばにいられただけましよ!あたし、どんな悲惨な最期でも看取ってあげたかった。最後まで側を離れないでーーー」
清秀は首を傾けた。
「ねえちゃん、いま、自分を無理やり不幸にしただろ?」
「ーーーえ?」
「ひどいの、ねえちゃんのほうだよ。自分の父親が目の前で妖魔に引き裂かれて食われるの、見るのと見ないのとどっちがましか、そんなの分かりきったことだろ?おれ、見たくなかったよ。駆け寄ることもできないで、もう駄目だって、自分に言い聞かせて逃げ出さないといけなかったんだぞ?とうちゃんは墓もない。葬ってもやれなかった。本当に、そっちのほうがましなわけ?」
鈴はあわてて口元を押さえた。
「あたし…」
「誰かが誰かより辛いなんて、うそだ。誰だって同じくらい辛いんだ。生きることが辛くないやつがいたらお目にかかってみたいよ、おれは」
「ごめんなさい、あたし…」
鈴は恥じ入ってうつむく。こんな子供が目の前で父親の無残な姿を見ることがましなことのはずがない。

『風の万里 黎明の空(上)「六章」』

ちょっと長めに引用させてもらいました。
読んでもらうしかないんですけど、こういう、穿った見方をすれば「女子に限らず稚拙に陥りがちなところ」を、喝破してくれているところ、っていうのが多々出てくるんですよね。ここに引用した「鈴(すず)」だけでなく、その章、その巻の中心人物も女性のことが多いです。ファンタジー要素(昇仙すると歳をとらない、とかはるか日本と思しき国から流されてきた人は海客と呼ばれる、とか怖い妖魔がいる、とか)は世界観を表す要素ですけれど、もっと奥にある、それらを利用した心理描写、というか共通する人間としての認識、しかも少女の悩みっぽい部分、そこまで書いてくれている。ファンタジーはファンタジーを利用して、現実世界を見通す役割を担っているんですね。

もう一度言いますと、「読んでもらうしかない」んです、この感覚。
ああ、あの後どうなったんだろう、あそこは今どうなってるんだろう…小野先生、書いて!書いてよ!毎日ツイッターで配信して!とか思ってしまうほどです。

 

Amazonプライムを見ていると、アニメ化されてるじゃないですか。

いや、待てよ…なんだ??

dアニメストア for Prime Video??
月額432円を30日間無料体験??

Amazonプライムにも新作レンタル、とかがあるのは知ってましたが、まさか内部に「有料」のdアニメストアが埋まってるとは…w

30日間、ですか。
全45話ある。30日間で見れるかな…。

ゲーム・オブ・スローンズもそうなんですけど、こういう、大世界を描いた作品て、やっぱり性格なのかなんなのかw、「どこかにほつれはないものか…」や「破綻してるだろそれ…」とか、思いながら観てしまうところがあるんです。

設定ってやっぱり、中心人物やストーリー周りから補強されていくものだろうし、それは理解しつつも読者や視聴者が、それ以外を勝手に想像してみて「あれ?ここがああなら、向こうはどうなってるんだ…?おかしくないか??」などと、勝手に失望してしまったりすることすらあります。

第七章が始まったど。『ゲーム・オブ・スローンズ』

そんな説明不要の説明までしっかりされているような、安心できる巨大で精緻な世界。

三度目ですが、「読んでもらうしかない」ので、ぜひ読んでください。
今、手元には「講談社X文庫」、最初に買った『丕緒の鳥』だけ新潮文庫なんですが、全13冊あります。

読んでみたい、という人は、メールでご連絡ください。
抽選になってしまいますけれど(発送をもって発表にかえる)、送料無料でプレゼントします。

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