見たもの、思うこと。

生活と、死と。『海街diary』

投稿日:2018年7月13日 更新日:

海街diary

2015年に公開され、奇跡のキャスティングが奇跡すぎて逆に話の内容が頭に入ってこないという奇跡の評判、だったような気がします。

原作は2006年から始まった吉田秋生の漫画(以下、敬称は略)。
鎌倉・茅ヶ崎・稲村などの「湘南」と呼ばれるあたり、江ノ島とかその辺が舞台となっていることもあって、名高い(地元の人によると鎌倉は湘南ではないらしい。だから「湘南diary」じゃないのか…)風景が楽しめる、風光明媚な景勝地と美人とリアル観光案内が同時に高速でぶつかってくる、まるで「ローマの休日」的な位置づけすら許される、稀有な作品なのです。

で、原作を読んでみると意外に『海街diary』、ただの美人がふわふわしているだけのお話では、ないんですよね。

どこに住んでたって、その人たちにとってはその日常が人生の舞台です。

「いいなあこんなとこに住んで」と言われて「いいでしょ〜」と答えてるうちはまだ「住めば都」感が芽生えてない、と言っていいのではないかと考えている私は、やはり有名な観光地とは言え「海街」としての場所が、単なる「地元」として消費・消化されているリアル、住民にとって「もう普通すぎて普通すぎて」「何もない」「つまらない」な現実的な感触が伝わってくると、それはそれで嬉しかったりもします。

だけど観光ガイドブックとしてもやはり有用だったりしますし(後述)、次々に出てくる名所・スポットは作品の彩りとして、憧れの景勝地として、海なし県で育った私のツボを、グッッと押さえにきてくれるものです。

3姉妹の父は、出て行った。
その父が、ヨソで作ってた子供。

すず、という主人公は映画では広瀬すずなんですけど、偶然なんですね。名前が同じなのは偶然だけどこれはほんとに偶然なのか。

いや、可愛すぎる。可愛すぎるだろ。
何度も言いたくなるくらいなんですけど、姉妹が全員可愛すぎる。美人すぎる。
なんらかの問題がいつ起こってもおかしくないくらいに、美人すぎる。近隣にそれなりのトラブルが起こってもおかしくないくらいに、美人すぎるのです。

舞台化もされましたね。

長女・香田幸は山崎真美(映画では綾瀬はるか)
次女・香田佳乃は柳ゆり菜(映画では長澤まさみ)
三女・香田千佳は門前亜里(映画では夏帆)
四女・香田すずは木下愛華(映画では広瀬すず)

うん、いや、まだ美人すぎるぞ。「まだ」って失礼な。
それにしても、いわば田舎の四姉妹がこんな美…こんなこと何回言ってもしょうがないんですけど、それくらい、映画は「印象」が強すぎる。

カンヌ国際映画祭のレッドカーペットに登場した四姉妹役の女優さんから醸し出されていた「絶対あんな古い木造の家に住んでるわけがない」オーラ、すごかったですよね。

第68回カンヌ国際映画祭 レッドカーペット特集 – セレブのドレススタイルをチェック
https://www.fashion-press.net/news/17436

 

姿が、見えてくる。

原作はそんな「海街」にある、言ってみればよくある話。

なんだけど、それを丹念に丁寧に描いた上に、身の丈と未来への不安を明るく混ぜた、叙情的な生活譚。

父親が死んで初めてわかった、もう中学生になっているという妹。
「一緒に住まない!?」と突然提案する長姉。
それに、あまり驚きもせず同意する二人の姉。
それに対し「行きます!」と即答するすず。

「え」

ぷ・しゅー、ここは最初のクライマックス。
そしてずっと続く、末っ子が心に低く抱えているものの、初めての発露。

映画は全部で2時間7分なんですが、この「行きます!」は17分39秒のところなんです。
このシーン、単行本1巻の、まだ67ページの段階で出てくるんですよね。

映画だと17分も経ってるのにまだ1巻の3分の1くらいのシーンですから、これは映画としてどこまでリーチが届くんだろう、という感じでしたね。
何巻までやってくれるんだろう…と。

映画は、食堂のおばちゃん(風吹ジュン)が亡くなる、という出来事とこれからを予感させる風景と家族の絆、そして印象的な礼服姿の姉妹を映し出してエンディングを迎えます。

原作ではそれ以上に、意外でもなんでもなく周りにある「個々人の事情」みたいな波、進学だったり恋愛だったり身近な破綻だったり、それらが打ち寄せたり体を濡らしたり、ほんとにどんな家にもあるような、でも特におおっぴらにはならないまま砂に埋もれるような、誰にでも降りかかるような悩み、焦り、葛藤、優しさ、を時にコミカルに、描いてくれています。

なにせそもそも「主人公級」が4人もいますし「diary」ですから終わらせる気がないなら何十年も続けられる。

それぞれにうまくいかなかったりそれぞれに優しい存在を見つけ出したり、だけどそれぞれが、どんなハッピーがあってもハッピーエンドではないし本当の日常にはBGMなんか無いしエンドロールもないし、なんの区切りもなく続いていくわけで、その虚しさまたは儚さ、儚いがゆえの大切さ、というようなものをじんわりを感じさせてくれる。

軽快なタッチに、避けがたい「人生」というテーマが練り込んである。

 

というわけで、これを入手しました。

これ2008年の刊行なので、もう10年以上前。
なくなってるお店とかもあるかもだけど、物語に出てくる風景を思い出しながら、歩いている気になれる、ふわっとした有能ガイドブック、と言えるでしょう。

せっかくなので、その辺りへ行ってきました。

あくまでふわっと、ね。
この間、「鎌倉宮」には行きました。
原作『海街diary』にも、ここは出てきます(かわらけ、思いっきり割ってた)。

岐(わか)れ道、に来た。

 

まずは、「長谷駅」へ。

ホームに、記念メダル製造機がおいてありました。
すごく観光地っぽい。

よく見ると「メダルリーフ」と書いてある。

葉っぱの形をしてる。
紐つけれる穴が空いてたりするんだろうか。
ぼーっと見ていると、後ろから猛然と来たおばさんが私を押しのけて、硬貨を入れてました。なんで?「急ぎ」でこれを入手しなきゃならない事情ってなんだろう。それも海街ダイアリー、か。

 

待つこと数分。電車きた。江ノ電。

いや、でもあれは反対方向、鎌倉駅方面行きです。

こんな狭い住宅街を抜けてくるとはそれ自体がまさに情緒。
土日や夏休みや花火大会の日のここの混雑も知ってますが、もう「ホームに上がるまで数十分待ち」の世界です。今日はのどかだ。

すぐに来ました。
「藤沢行き」あれに乗ります。

すぐ着きました。ひと駅。

 

ここです。

ああ、主人公たちが帰ってくる駅、はここなのです。

勝手な母親に、長姉・幸がわざわざ家に戻って梅酒を持って来てあげたのもここ。

そしてここが極楽寺

霊鷲山極楽寺(リョウジュサンゴクラクジ)。
霊鷲山(りょうじゅせん)というのは、悟った後の釈迦が、説法を数多くしたと言われる山です。そこに「極楽」の名を関するお寺がドッキングしようとは。

言うまでもなく、釈迦が説いた世界観に「極楽」や「誰もが平等に成仏する」という大乗思想は、入っていなかったはずです。

この極楽寺は真言律宗のお寺なんですね。
境内にも入りましたが、異様に大きな見慣れない黒いチョウチョがいて怖かった。
クロアゲハ。

このお寺の由来。

 開山は良観房忍性(りょうかんぼうにんしょう)。奈良西大寺叡尊(えいそん)門下で戒律を学ぶ。弘長二年(一二六二)に北条業時(ほうじょうなりとき)に招かれて多宝寺住持となり、その後文永四年(一二六七)に極楽寺に開山として迎えられました。
極楽寺は正元元年(一二五九)に深沢に創建され、後に開基となる北条重時(ほうじょうしげとき)が現在地に移転したといわれています。元寇に際しては、幕府の命により異国降伏の祈祷を行い、また、鎌倉幕府滅亡後も勅命により国家安泰を祈る勅願所としての寺格を保ちました。かつての寺域は広大で、中心の七堂伽藍を囲むように多くの子院、そして療病院などの病院施設もあったことが当寺に伝わる絵図からわかります。

ずいぶん昔からあるんですね…。

あの赤い屋根は、地蔵堂。
この日、フォトウェディングに臨むカップルがいて撮影に臨んでいました。暑いのに。
なぜか二組とも、韓国のチームでした。
そういう旅パック(コース)があるんですかね。

橋の上にいると、江ノ電がやって来ますよ。
さっき自分が乗ってた電車。
「極楽寺トンネル」を抜けてきます。

そこから、少し移動します。

 

なんか、いる…。

あれってサトちゃんじゃないの。

少しだけ坂をくだりました。
書いてありますね、成就院卍。

階段を登れ、と。

東の結界、と書かれた門をくぐって上まで行くと…
こういう景色が待っています。

 

そう、うん、…あれ??

こんな綺麗で広かったっけ、ここ。
実はけっこう前に、来たことがあるんです。その記憶と違う。

ほら、こんな感じ、だったんですよ。↓
紫陽花がブワーッと。
そういう季節だったんですね。
調べてみると2009年、でした。
道も、狭かった。

拡張して、整備されたんですね。
ずいぶん歩きやすくなってます。

 

そう、実はここは、ここなんです。

寅さん(渥美清)が、一人では恥ずかしいから強引に満男(吉岡秀隆)を連れて、あかりさん(いしだあゆみ)が指定したデートの待ち合わせ場所として訪れた地。

全作品の中でも一番好きな、これです。

この作品、異例中の異例で、恋愛偏差値の低いあの寅さんに対してあかりさんが「完全にその気」で、寅さんはもう女性からの夜這いというかあとはそれを受け入れて応えるだけ…というシーンがあります。

結局、根性ナシなのかなんなのか寅さんは目をつぶって寝てしまって何も起こらないんですが、それも印象的な「寅次郎あじさいの恋」

このシーンの一つ前、寅さんと満男は鶴岡八幡宮の段葛の下を歩いているので、江ノ電に乗らずに若宮通りのあそこからあそこを通ってこっち側から(私が登って来た西の結界ではなくて逆の「東の結界」から)登って来たのか…という感じ。

坂を下りると、案内地図がありました。
普通の地図とは南北が逆、です。

ちょっと下ると、あ、あった。

星の井

これは何?
屋根?
誰か住んでるの?
なんでフタしてあるの?

ここにも由来が書いてありました。

星の井(ほしのい)

この井戸は、鎌倉十井の一つで、星月夜の井、星月の井とも呼ばれています。
昔、この井戸の中に昼間も星の影が見えたことから、この名がついたと言われています。
奈良時代の名僧・行基は、井戸から出て来た光り輝く石を虚空蔵菩薩の化身と思い、お堂を建てて虚空蔵菩薩をまつったという伝説もあります。
井戸の水は清らかで美味だったので、昭和初期まで旅人に飲料すりとして売られていたそうです。

平成11年12月。

行基、出て来た…。

行基と言えば

実は行ってた「平将門公像」(画像23枚)

この回にちょろっと書きました、あの奈良の大仏を作るのに大貢献した稀代の僧。
今も近鉄奈良駅前の噴水のてっぺんで、大仏殿を見つめています。

だけどこの井戸、昼間も星が…味もいい…のに完全に、閉じてるんですね。
もう枯れたのか、それとも安全面でのことなのか…。

「新編相模国風土記稿」には「慶長5年6月に。徳川家康が京都からの帰り道に鎌倉に立ち寄り、 その際に星月夜の井戸を見物してから雪の下に到着したとの記録があるので、 昔から星月夜の井と言われたであろう。」と書かれているそうです。慶長5年というと西暦1600年。まさに天下分け目の関ヶ原の戦いが行なわれた年です。合戦は10月なので「上杉景勝に謀反あり」と東北へ攻めのぼる(フリをしたと言われている、創作か)途中、だったんでしょうか。いやいや、ここは鎌倉。石田三成の挙兵を知ってとって返して決戦に臨むにしては帰りすぎてるぞ。

6月中頃にはまだ家康は伏見にいますから(7月下旬に奥州に着く予定だった)、本当にこの家康のエピソード、「慶長5年」の話なんですかね。

 

そうこうしているうちに、おや、行列ができてるお店があるぞ…?

あっ、テレビで見たことある!食パン屋さんだ!!

Bread Code
http://bread-code.com/

2015年にできた、1斤900円くらいするプレミアム食パン。食べてみたい。

その筋向いの角にあるのはこちらは、老舗。


創業300年を誇るそうです。
ここは、今度来たら絶対に食べる。

先述の、「すずちゃんの鎌倉さんぽ」にも出て来ます。
のれんの文字は、林祖洞(1899年〜1949年)によるもの。

ここで、シュッと路地へ。

 

なぜなら、その向こうに海が見えたから。

大学のサーフィン部が集まってる施設。

ここを抜けると、道路(134号線)に。
これでも大雨注意報が出てたんですね。
パラパラと小雨が降ってました。

稲村ヶ崎・磯づたいのみち。
海岸線を右へ行くと、稲村ヶ崎へ。
左へ進んで行くと鎌倉駅。

そんなに砂浜には人はいませんでした。
外国人観光客と、修学旅行の中学生がちらほら。5、6にん。

今回は砂浜へは行きません。
だって砂入るやん靴に。

 

で、長谷駅へ戻って来ました。

どこかで何か食べるの忘れてたので、何か食べようかと。
ああ、
もう、
汗だくですし、
あそこでいい。
いや、あそこがいい。
私もこの立地に先祖代々の土地があったら、食堂をやる気がする。

しかし線路に敷いてあるこれって、

人間用、なの?
違いますよね多分。
犬…猫…鹿…いやぁ、アザラシとかオットセイとかにしか通用しないような気がするけど。
どうなんでしょう。

とにかくお店に入って涼みます。
さすが駅前。
サザンがかかってる。
いいですね、これですよ、こうじゃないと。

まったく「自分はそんな感じじゃない」という自覚もしながら、関東にしばらく住んでいながら、こういう観光客扱いをされるのも嬉しい。

あの、海なし県で過ごした日々が想起されます。

憧れの鎌倉。

憧れの湘南。
憧れのサザン。
憧れの海街。

これにしよう。

 

 

 

 

 

 

来た。

生しらす。
あんまりじーっと見ると怖くて食べられなくなるので、う〜ん美味い!と先に言ってしまうのがライフハックというものです。

とはいえ私、独りなのでまぁ、あんまり喋ってると「ヤベーヤツ来た」って思われてしまいますので、黙って食べてます。たいてい孤独のグルメです。

 

というわけで今回歩いた通ったルートは、こちらです。
グリーンは乗った江ノ電(190円)。

「海街diary」、映画も素晴らしいですが原作をぜひ読んでください。
そして「すずちゃんの鎌倉さんぽ」を片手に、散歩しましょう。

話の続きも気になるし、やっぱり今もなんだか街角のどこかから登場人物たちがひょっこり現れて、目の前で話したり、走っている姿が見れる気がするから。

映画みたいなあんな美人は、この辺にはいないでしょうし(めちゃくちゃに失礼)。

 

今回は以上です。







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