去る11月29日、なんだか季節のわりに寒くもない夜、東京は下北沢にある「ろくでもない夜」で行われたイベントについて、書きます。
LIVE&BAR「下北沢ろくでもない夜」
http://69demonai46.com/
ここは、界隈ではすごく有名なライブハウス。
有名無名・プロアマ問わず、音楽かどうかも問わないオールジャンルなイベントが夜な夜な開催されている名所、なんだそうです。
初めてうかがいました。
あの「本多劇場」の向かいのビルです。
ここです。
「お笑い」と「短歌」と「道場」をくっつけたタイトリングはその語呂の良さから、スッと耳に入ってきますね。
これには元があるからです。
そう、「お笑いマンガ道場」。
かの有名なテレビ番組です。
「た」と「マ」くらいしか大きくは変わらないんだからその耳なじみも当然です。
でも、どんなことをするか一見、わからない。わかりにくいかも。
短歌を嗜(たしな)んでらっしゃる方からは「なんだか短歌を題材に、面白い、笑えることをするのかな!?」という期待感。
そしてお笑い好きな人からは「短歌っておもしろ味、あるの!?笑えるの!?」という期待感。ともに、優しい懸念。
この二つのハードルと水たまりを、どうやって、飛び越えかわしくぐり抜けるのか…。
仕掛け人は出演者でもある、笹公人氏。
そして放送作家・ゴウヒデキ氏。
さらに「TOCANA」編集長・角由紀子氏。
この本を読んで、ほぼその直後にお知り合いになることができた歌人・笹公人氏に、スープカレー屋さんで「このイベントの司会をやっていただけませんか」とお願いされ、「はい、いいですよ」と二つ返事をしました。
新しい物事の驚きと輝きは、二つ返事から始まるのですいつも。
この時点ではありがたくも、笹先生の独断というか、一本釣りで決めていただいたキャスティングだったらしく、「知的好奇心の扉・トカナ」サイト上の記事には、私の名前はありません。
【11/29】「短歌とお笑い」が奇跡の融合イベント開催! 笹公人・枡野浩一・ラリー遠田が審査員、エンタ芸人らが登場!!
http://tocana.jp/2017/11/post_15062_entry.html
11月8日には渋谷にあるサイゾー本社での打ち合わせにも参加しましたが、「誰だよ…こいつ…」という空気の中に、私は座っていたのでした。
でも針のむしろ、とは感じませんでした、どう考えても、論理的に自分がヨソモノなのは当たり前だからです。
現状を正確に把握すれば、緊張する無駄は省けます。これは技術です。
その代わり、「やっぱりお断りします」とやんわり言われたりすることも、覚悟はしておりました。
そのくらい、場違いな、疎外感を持っておりました。
それ自体は、慣れてるんです。
常にだいたい、RCサクセションの歌では無いですが、「ヨソモノ」感を勝手に持って生きてます。
初稿の台本には私の名前のところに(お笑い芸人)って書いてくれてたくらいですから、単なる無名の人、扱いされてても当然です。
で初対面でもロクにマスクも取らない失礼な私も私。
そんな私も、なんとか開催日に呼んでもらえました。
改めて、出演者を紹介します。
審査員はこちらの3名。
歌人・笹公人(https://twitter.com/sasashihan)
お笑い評論家・ラリー遠田(https://twitter.com/owawriter)
〈スペシャルゲスト〉歌人・枡野浩一(https://twitter.com/toiimasunomo)
この3名の審査員に、すでに詠んできた短歌を評してもらって、勝敗を決めるチーム戦。
白組・赤組はそれぞれ3名ずつ。
紹介します。
☆白組
放課後片想い系妄想発明家・たいがー・りー(https://twitter.com/tiger___lee)
構成作家・ゴウヒデキ(https://twitter.com/gohideki)
川本成(https://twitter.com/Runarurunaru)
★紅組
トカナ編集長・角由紀子(http://tocana.jp/)
ハローケイスケ(https://twitter.com/hello_keisuke)
サイキック芸人・キック(https://ameblo.jp/kickhoshi/)
キック氏は欠席。
この日、第一子の出産に立ち会うという吉日だったそうで、これで「お笑い短歌道場」の方に参加してたら一生奥さんに、「そういえばあんた、あの日もさぁ…!」って、喧嘩のたびに蒸し返されて怒られてたでしょうね。休んで正解。
休んでも、いなくても大丈夫なのは、短歌はすでに、詠まれたものが集められているから。
自分で説明はできないものの、評価はしてもらえるんですね。
イベント開始時、作家のゴウヒデキ氏もステージにはいなかったですね。
タロット教室の予定が入ってたと。自由か。
時間がかぶるのはタロットでは占えなかったのか。
そういうの好き。進行には滞りないですから。
それぞれが詠んだ短歌を無記名でまずは発表し、これを先生方から講評をいただきつつ、紅組白組、どっちが勝つか…!!??
…壇上でも私、言いましたけど、これって「お笑い紅白短歌合戦」じゃないですか???
どちらかというと、対戦形式から見ても「道場」というより「合戦」だと思うんですよね、うん、紅白に分かれてるし。
いや、でも…というところなんですよ。
これ、「お笑い紅白短歌合戦」にしてしまうと、「紅白による短歌合戦」しかできないイベントになっちゃうんです。永久に。
「短歌道場」だと、なんでもありな要素、余地がたっぷりある、そこまで、企画段階で考えてあるんだと思います。
なのでそもそも、紅組が勝とうが、白組が勝とうが、どうでも良い(後述)。
それぞれの短歌を、無記名のまま、誰が詠んだかわからないまま発表する。
その際、朗詠してくれたのは…
街子さん。
https://ameblo.jp/machik0-komachi/
モデルさんです。
腰回り、マジでリッツの缶くらいしかないんだよ(しつこい)。
あの中に我々と同じ機能の内臓がぜんぶおさまってるとは到底思えないんですよね…でもあんまりジロジロ見るのは、禁止です。
短歌を詠みあげる役割の女性がいらっしゃる、というのは、イベントの質を著しく高めますね。
だらだらと司会者(この場合は私)とかが変な関西アクセントなんかで読んだりするより、2億倍くらい華があります。
夢があります。
品があります。
そうかな、と想像してたらまったき、その通りだった。
では始めましょう。
1人1首、チームは3人なので3首ずつ。
紅白両チームで6首が、ステージ上を飛び交います。
まずは第一回戦。
お題はフリー。
紅組
角由紀子:
さみしくて人類みんなきょうだいと念じて気づく私一人っ子
キック:
義経の出陣のおり時空裂け長渕剛轟音で鳴る
ハローケイスケ:
よく振ってお飲みくださいという注意書きに開けたあとに気付くよね
白組
ゴウヒデキ:
いたっけ?といたのに言われる才能を活かせるスポーツあればやってた
川本成:
欧米の悪い所の集大成 憧れちゃダメ エグザイルなんかに
たいがー・りー:
君がさす どこにでもある その傘は 私の傘と 間違えたもの
なんだか、私などからすれば「なんでそんなに短歌作れるの?」って不思議なんですよね。
どこかで習ってたの?
短歌会とか入ってるの?
第二回戦。
お題はフリー。
紅組
角由紀子:
陰毛を本の栞に使うほど動きたくない休日だから
キック:
放たれたミサイル縮めどんぶりのラーメンに着水させる技術
ハローケイスケ:
UFOと天狗が同時に現れて野ぐそ慌てて尻拭き忘れ
白組
たいがー・りー:
月光の涙を鏡に反射させ君の教室に 二人の合図
川本成:
鳥取の砂丘の砂の減少問題土産屋寄れば 砂グッズだらけ
ゴウヒデキ:
やつれたる元カレ突然現れてタロット落とす阿佐ヶ谷の母
続けて、第三回戦。
お題はフリー。
紅組
キック:
グラビアのクレヨンしんちゃんのモノマネ禁止の公約で選挙通る
角由紀子:
人生は不幸じゃないと始まらぬわかっちゃいるがまだ終われない
ハローケイスケ:
どんぐりこ小池にはまってさあ大変背比べして後はシャンシャン
白組
たいがー・りー:
おはようやこんにちはではたりなくて こんばんはより おやすみなさい
ゴウヒデキ:
殺された人らはみんなやさしくておとなしい子と知る人は言い
川本成:
ぴきひきびき ひきひきぴきひき ぴきひきぴき
でも鳥は わわわわわわわわわわ
いや、調べたらこうだった
ぴきひきびき ひきひきぴきひき ぴきひきぴき
でも鳥は わわばわわわわわわっぱ
さて、「自由題」による短歌の応酬、これらすべての歌に、審査員の先生方の講評がつくんです。
丁寧な解説。
なぜか裃(かみしも。お奉行様みたいなやつ)を着た笹氏、「立派な歌人」枡野浩一氏による、専門的で深い読み方。
一つの言葉をこっち方面から、またあっちっ側から眺め直してみたらもっと胸に来るよね…景色浮かぶよね…という具体的なテクニック、そしてプロによる「言葉そのものへの情愛」のような迫力を感じました。
そしてラリー氏の、お笑いになぞらえたわかりやすい分析。
お笑い芸人が詠んだ歌が混じっているだけに、誰の作かはまだわからないこの段階で、「これはそれっぽい。ちゃんとお笑い要素としての力点が置かれている」と喝破する的確さは見事でした。
そして休憩を挟み、ここからは「題詠」。
お題をもらって、それに即した歌を詠む。
だいえい、と呼ぶんですね。
簡単なようで難しいんじゃないですかねー!?無責任に言ってますけど。
一つ目のお題は…
「神」。
後半一回戦。
紅組
角由紀子:
大地震洪水噴火どれにする神も忖度今日は晴れ
キック:
偶然を肴につまむこの酒の完全な味有り難きかな
ハローケイスケ:
トイレット ペーパー残りあと僅か足りるかどうか かみ頼みだぜ
白組
ゴウヒデキ:
雨降れと願へばながめふりにけり鬱にのたうつ我は龍神
たいがー・りー:
中2冬 友とこっそりみたビデオこれが本場の オーマイゴッド
川本成:
それぞれに 信じる神はいるけれど気づけば結局 萩本信者
後半二回戦のお題は…
「歯ブラシ」。
紅組
ハローケイスケ:
五十嵐の独り暮らしの歯ブラシの毛先を全部ダメにしてやる
角由紀子:
無機質な部屋を演出するために歯ブラシ捨てた君の歯に海苔
キック:
歯ブラシで磨くではなく歯ブラシに磨かれるように歯は磨くのだ
白組
たいがー・りー:
電動を歯でないところにあててみる深雪消す声 1人クリスマス
ゴウヒデキ:
言うほどのこだわりなけれど選(よ)り出せばたちまち迷う恋と歯ブラシ
川本成:
ハミガキマン うーたんぬーたん みたいにねでも歯ブラシで 頭を磨く
なんかさらっと、みんな上手いことよみますね?
ひょっとして私が知らないだけで、みんな歌聖の末裔か何かなの?
そして最終決戦、三つ目のお題は
「ハンドスピナー」、でした。
紅組
キック:
お社でハンドスピナーを回せば敵対国に竜巻起きる
角由紀子:
ロシア軍人類洗脳するためのハンドスピナーマッハ52
ハローケイスケ:
柴刈りもせずに戯るおじいさん家庭を壊すハンドスピナー
白組
川本成:
とりあえず買いに行ったが 欲しくないいらない人に 回して欲しい
たいがー・りー:
暗号に 三個指輪が反応しなんと雪山 ハンドスピナー
ゴウヒデキ:
おい見ろよ江戸の中期のこの春画女の手にはハンドスピナー
これら、もちろんただ淡々と短歌を詠んでいくっていうだけじゃなくて、審査員の先生方の解説とともに、詠んだ本人による「なぜこうなったのか!?」という力説があり、その過程でいろいろたくさん面白い話が聞けたんです。
特に川本氏が語ってくれた、題詠一回戦の「神」にまつわる欽ちゃんバナシ。
いやぁテレビで欽ちゃんファミリーがやってらっしゃるあのノリ・クオリティそのまんまです。
芸能史としても成立するようなレジェンドエピソードの連打。
ひょっとして今、この感じの喋りは川本氏が一番上手いのかもしれない。
実は私と彼は…(後述)。
さて、すべての対戦が終わったんですが、勝負は引き分け。
なんと第一回「お笑い短歌道場」は、両チーム引き分け、となったのでした。
ここで、よくある「最後だけ100ポイントで逆転のチャンス」というやつ、これは採用しませんでした。
会場におられた方は見ていただけたと思いますが、一瞬、「それ(最後に勝ったチームが優勝しちゃう流れ)になる感じ」、ありましたよね。
いわゆるよく見る、「なんだよー今までの勝負はなんだったんだよー最後で決まっちゃうのかよー!」的な、アレね。
私が、却下しました。
なぜなら、「その方がいい」からです。
この大会、紅組白組、どっちが勝ってもそもそもどうでもいいんです。
それが証拠に、司会者である私、何度も「あれ?今、どっちが勝ってますっけ??」って聞いてたでしょう?
一応の進行上、必要なポイントだとは思うのですが、下北沢駅から電車に乗りながら「いやぁ、まさか紅組が最後に逆転されるとはねっ」とか「「まさかの白組圧勝だったねえ!」なんて、話すお客さんはいないんです。
ましてやいつまでも覚えている人はいない。
だって、じゃあ去年2016年の、NHK紅白歌合戦の勝利チーム、視聴者のなん%が覚えてますか??
意味ない、ということではありません。「どっちでもいいん」です。
これは、「対戦形式」という魔法なんです。
M-1も、笑点も、NHK紅白も、格闘技や武道の試合を模した「対戦形式」を採用して、その過程をより楽しめるように工夫してあります。
それが、いつしか「誰が優勝するか」「誰が勝つか」というところだけに焦点を当ててしまう偏りが、現れています。
そうすると、楽しみ方の解釈を誤るんです。
誰が優勝するか、がとっても大切なように見えているのは、「対戦形式」の薬が効きすぎている証拠です。
だから「2位だった人の方が売れている!!」ことがほんの少し、理不尽に思えてきたりしちゃうんです。
大事なのは「場があること」。
順位や勝敗は、スパイスなんです。
つまり2位も5位も、本当はないんです。
1位はもちろん祝福されるべきですが、本来、お笑いの優劣に「対戦形式」は適合しません。
だって一時的な相対評価で勝ったって、ウケたかどうか、勝ってる負けてるは、舞台に立った本人が、一番わかってますから。
今回は「引き分け」。
これは記憶から呼び出すのが簡単です。
「前回は紅組が勝ちましたからリベンジを〜」などというのは、とてもチンケな遊び方です。
それは言い過ぎかもですが、もし2回目の開催があったら、紅組だった人が白組に座っているかも、しれませんしねえ。
というわけで、文化的意義があって内容が濃く、高尚にして優雅なる「お笑い短歌道場」は無事、閉幕しました。
観にきてくださったお客さんもやはり短歌に親しんでいらっしゃる方が多かったのでしょう、審査員の先生方のお話の時の集中度が、とても高かったです。
言葉を発しなくても、お客さんの脳内が壇上の言葉と直結するとき、その中間は真空に近くなります。
それを感じとる能力が私の場合強すぎて、本当に何度も「あれ?ここで何してるんだっけ?」という状態になりました(それは言い過ぎ。次なんだっけ…?っていう感じでした)。
おそらく来年、第2回はあるのだろう、ということで三三五五。
短歌を詠むなんて難解で知的なこと、どうしてステージで対戦してた人らは軽々と、やすやすとやってのけられるんでしょう。
まずそれが、ほんとに不思議。
ナチュラルに尊敬します。
しかもお笑い芸人の場合、そのもっとも優れたスキルは「その場でなんとかする」なんですから、本来、とても苦手な形式だったはず。
「先に提出しておかないといけない」このパターンは、取り返しがつかない場合があるんですよね。
お笑い芸人の瞬発力の意味は「その場の状況をどう『フリ』と見なして、それに合わせた『オチ』を自分でつけるか」なんです。
ですから、ふつーの大喜利みたいに、隣の人がこう出したから、それに合わせて自分は次、こうする、ができない状況であるこの「お笑い短歌道場」は、かなりハードルの高い舞台だったと思います、緊張の仕方が、よくわからないレベルで。
「詠みっぱなしで虚空を見つめて内的世界を楽しむ」は、芸人には許されませんから。
ですからある程度、「自分で回収する」用意はしてきてある。現に、してありましたね。
もししてなくても、その場でなんとかするのが「腕」です。
よく考えたらみんな、そんなことできて当然の、ベテランだった。
上に書いた、欽ちゃん話を聞かせてくれた川本成(かわもとなる・exあさりど)さんと私は、このイベントで約20年ぶりの再会をしたんです。
あれは1995年?1996年くらい?ですかね、彼らが「いいとも青年隊」で毎日お昼にアルタで踊ってた頃。
知り合いになった私は、大阪で当時やっていたラジオの公開収録に、彼らにゲストとして来てもらうことにしたのでした。
その時、彼ら「あさりど」は大阪で初・単独ライブ。
勝手が違う環境で、かなり戸惑っているようでした。
あっ、思い出した…その単独ライブで、オープニングコントのモチーフが関東ローカルのCMか何かのパロディで、「いや、そのCM、こっちではやってへんで?」と私が言ったら「嘘!!どうしよう!」となり急遽、「タモリさんのコスプレでウキウキウォッチングを歌い踊る」というものに差し替えになったのでした。
お客さんは「あの」が見れたんですから大喜び。
臨機応変で体力があり、ハキハキしてて男前、誰にでも好かれる魅力があって当時、私の印象として「東京の人ってすごいなぁ」の代表格なのが彼ら、だったのでした。
あれから20年。
なんで「お笑い短歌道場」の舞台で会うんだと。
ほんと、わからないものですねえ…まだ、ホリ(堀口文宏さん)には会えてないけども…。
昔の風景を懐かしむ滋味と、未来へ続く可能性を秘めた、新しいカタチのイベントに参加させていただいて、大変嬉しかったです。
ちょっと、司会が邪魔で、まさに視界が悪かった、なんて部分もあったかもしれません、お詫びいたします。舞台が狭いんじゃ!!
私のことを初めて見て、「ああ、こういう人もいるんだなぁ」と思ってくれた方々、またお会いましょう。
第二回にも呼んでいただけたら、また手ぶらでフラ〜っと馳せ参じますのでその節はみなさんよろしゅうに。