絶縁状。
ヤクザの世界では、絶縁は「この者とは縁を切ります」という意味で、それを書いて各所に配られるものを「絶縁状」というんですね。これが配られた後は、その人を客人や子分として扱ってはならない、ということで、その世界にはいられなくなる、という意味を持っているそうです。
追放する、ってことですね。絶縁されたら、稼業から足を洗うしかない。
しかしそんなの全国から次から次へ届いたら、氏名なんて覚えてられるんでしょうか。
リスト化して顔写真のデータと照合してあったりしてあるのかもしれない。
遠く離れて偽名でどこかへ潜り込む…とか、そういう裏技があったりするんでしょうね。
舞台は東京。
近代化したヤクザ組織のトップが「頂上作戦」で逮捕されたところから、内紛が始まります。
昭和39年(1964年)から始まった警察による「頂上作戦」は、組織のトップを逮捕することで弱体化を図るという狙いがありました。
「日本侠客伝 絶縁状」の公開は1968年なので、天盟会の橋爪彦七会長(伊井友三郎)が逮捕されたのは第一次頂上作戦で、ということになりますね。1964年。「第二次」が実行されるのは、昭和45年(1970年)になります。
つまり過去7作品と違って、今作はけっこう「新しい」時代設定なのです。
当時(60年代後半)の「現代ヤクザ」を題材にしている。
組織のトップを微罪や教唆で逮捕して、余罪を追求してなかなか釈放しない作戦。
三年が過ぎた冬、浜田勇吉(高倉健)に会長は、「暴力団になるなよ」と言います。
仁侠道を生きてきた会長は、現代ヤクザの悪辣な暴力団としての活動を、戒めたんですね。
それが、昔かたぎの親分の、重しとして作用していた。
服役することでシャバが、乱れていく…ということでもあります。
あっ、また藤山寛美(殺されます)が出てる!
戸山(小島慶四郎)との大阪弁での掛け合いが素晴らしい。
おそらくアドリブであろう藤山寛美(殺されます)のセリフ回し、間の取り方。
どんどんこのシリーズでの重要度が増しています。
高度成長時代へ進む日本、建設ラッシュ、不動産…。
その経済活動に、するどく食い込んでいくヤクザたち。
大手ゼネコン三輪建設の社長(宇佐美淳也)も、「(天盟会の橋爪彦七)会長とは兄弟同然の付き合いをしてきたんだ」と平然と言います。今ならどうなるでしょう、的な発言ですね。
美空ひばりが小林旭と結婚したのは1962年(離婚は1964年)。
その両方の記者会見に、山口組三代目、田岡一雄が出席しています。
そういう時代。
この「日本侠客伝 絶縁状」は、そういう同時代性を重視していると言えますえ。
このシリーズ、の全てにおいて、主人公は小さな組織に出入りしており…という設定でした。
または、組織なんかない一匹狼が、悪に立ち向かう、という図式でした。
しかし今回は、もう大きな団体が舞台です。
離合集散を繰り返し、大きくなってきたヤクザ組織。
その中でのやりくり、主に金の問題。
あくどく稼がねば、のしあがれないヤクザ世界。
子分にまで苦労をさせている…という悩みを持つ浜田勇吉(高倉健)は、「暴力団」と世間で呼ばれることについても苦しみます。
ついに橋爪会長の面会に訪れ、天盟会を脱することを告げます。
そして浜田組は解散。
子分たちと一緒にカタギに。大手ゼネコン三輪建設の社長の助力もあって、土建業を始めることに。
組員たちも、新たな門出を迎えました。
めでたしめでたし。
…で終わるわけはないですね。
天盟会の同門だった上野組からの嫌がらせ、軋轢、さらに暗殺(藤山寛美)など、いろいろな苦渋に耐えつつ、会長の出所祝いに出席する、という日を迎えます。
妻の兄(菅原謙二)まで殺されてしまい、祝いの席に赴くつもりだった浜田は、とうとう紋付袴から着替えることに…。
古巣である天盟会事務所へ単身殴り込み、仇敵と化した赤堀(遠藤辰雄)と上野(渡辺文雄)と対決します。
いや、元とは言え、あんまり親分のお屋敷で大乱闘・大量殺戮はしない方がいいんじゃ…とも思いますが、怒りに燃える浜田勇吉(高倉健)にそんな分別はもうありません。
決死の覚悟で切り倒し、復讐を果たす浜田。
そんなに斬って刀に血って、それくらいしかつかないの?っていう感じですがやはり、握った右手はなかなか離れてくれないんですね。
親分の前で手をつき、処断をまかせると謝ります。
バカヤロウ、お前が斬れるかよ
と会長は言い、天盟会を解散すると告げます。
そして警官隊が住居を囲んでいる様子になり、今回は「完」でエンド。
そしてパトランプのアップで終わります。
やっぱりこう、必ずラストは警察がいるという、「治安、良いです」的なニオイをエンディングで出さないと、「暴力を助長してる」みたいな謗りを受ける風潮があったんでしょうか。
不自然なくらいに突然「ポリス感」が高まって終わるんですよね毎回。
それまでの犯罪には、ほぼなんの役にも立たないくせに。
「日本侠客伝 絶縁状」は、江戸明治大正から続く昭和の仁侠を引きずりつつ、それがもう「古いタイプ」になってしまっているという『残侠』な雰囲気も出しています。
1960年代の現代ヤクザへの風刺、権力への揶揄、みたいなのも見せながら、一応最後は「切りまくる」で締める。もう、健さんは飽きてるんじゃないかなと思いますね、正直、毎回最後はほぼまったく同じですから。
けっきょくどこにも「絶縁状」は出てきませんでした。
ーシリーズ11作ー
第1作『日本侠客伝』1964年8月13日公開
第2作『日本侠客伝 浪花篇』1965年1月30日公開
第3作『日本侠客伝 関東篇』1965年8月12日公開
第4作『日本侠客伝 血斗神田祭り』1966年2月3日公開
第5作『日本侠客伝 雷門の決斗』1966年9月17日公開
第6作『日本侠客伝 白刃の盃』1967年1月28日公開
第7作『日本侠客伝 斬り込み』1967年9月15日公開
第8作『日本侠客伝 絶縁状』1968年2月22日公開
第9作『日本侠客伝 花と龍』1969年5月31日公開
第10作『日本侠客伝 昇り龍』1970年12月3日公開
第11作『日本侠客伝 刃』1971年4月28日公開
…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。
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