「いちみえにおとこさんかねしげぇごせぇろくおぼこひちぜりふやぢからきゅうきもとひょうばん」。
これが、男がモテる要素10。
ひらがなばかりでなんのことかわからず、読む気も失せるでしょう。
直すと、こういう感じになります。
1、見栄
2、男
3、金
4、芸
5、精
6、おぼこ
7、台詞
8、力
9、肝
10、評判
これは落語「いもりの黒焼き」に出てくる。
モテない男が、「どうやったら、女子(おなご)が寄ってくるようになりまっしゃろ?」と、無理な相談をする。
なんでも知ってる御隠居(甚兵衛さん)は「本物のいもりの黒焼きをふりかけろ。自分にもつけとけ」というアドバイスを、最終的にする。
この噺(はなし)は、別名「色事根問(いろごとねどい)」という。
「稽古屋」の前半部分でもある。
色事・恋愛については、江戸時代も明治時代も、今も変わりない…のか…?
最終兵器・いもりの黒焼きに至る前に、甚兵衛さんがブサイクな若者に授けた「10個のモテ要素」は本当なのか?
1、見栄
2、男
3、金
4、芸
5、精
6、おぼこ
7、台詞
8、力
9、肝
10、評判
上に挙げた10個のうち、1つでもあれば、モテる要素になる、とのこと。
順番に、見ていこう。
1、見栄:みえ
見栄とは「なり、かたち」のこと。
今風な格好、気の利いた身なりを指す。
ファッション的に素晴らしいセンス・チョイスをする人ってやっぱり「見た目」に時間を使ってるという意味で、無頓着な人よりも神経は細やかな部分、あると思う。だからと言ってファッションだけに異常に神経を向けている人って内面的には問題ある人多い(気がする)。
オシャレだけど清潔感ない人、もいるしねえ…。
2、男:おとこ
これはまさに「男前かどうか」。
顔の造作よりも「1、見栄」が先に来ているのがポイントだと思う。
歌舞伎の「二枚目」にも通じるか。
男前だけど病弱、とか男前だけど貧乏、とか「男前」「二枚目」は必ずしもそれだけで大成功の要素ではないということを表している。「一枚目」には勝てない。古今東西、俳優さんとかモデルさんとかはみんな男前だけれど、それは俳優やモデルをやっているから価値があるのであって、ぜんぜん違う仕事なら「男前なだけ」「二枚目な無能」という評価もあり得る。「男前」は完全なる天賦の才。でもそのギフトを活かせる!と気づくことが、まずすごい。
3、金:かね
この落語にも出てくる、「惚れ薬、何がええかとイモリに聞けば、今じゃわしより佐渡が土」。
佐渡と言えばゴールド。
金(きん)。
おなごが寄ってくるなによりの薬は、佐渡で土掘れば出てくるもの、つまり「金」だという皮肉。そりゃそうか…大富豪が美女を手に入れる、これって人類史上、「富」が生まれておそらく何千年も続いている原理原則、真理だ。
例外は、もちろんあるけれど。
4、芸:げい
歌とか踊りとか、一芸に秀でる、というのは魅力につながる。
芸人さんが人気なのは、その「なにかができる、できようとする、それに向かって努力する」というような姿勢が、カッコよく映るから、ではないだろうか。「無能な男前より多芸なブサイク」、が通用する可能性がある。中でも踊りは「芸事のうち上八枚に入る」と言われるほどに、魅力あるスキルだったのだ。やっぱりダンス。
5、精:せい
これは「精力」。
性的な、直接的なことではなくて「精を出して働く」というような意味なのか…落語の中でもサラッと流されてる気がする。そしてその「精を出して働く」っていうところが、意外に一番難しい。これに自信を持つのってけっこう時間がかかる。
というか「精を出して働いて」いれば、「うーんどうやったら、女が寄ってくるようになりまっしゃろ?」というようなことを、迂闊には、安易には、思わないような気もしてくる。
6、おぼこ
これは、当て字で「未通女」と書かれることがある。
これは処女そのものを言ったりしますが、当て字だ。
本意は世間のことをよく知らず、世慣れていないこと。または、その人。つまり純情。必ずしも童貞のことではない。年上の女性がかわいがってくれる要素、ということになる。年下男性の好きな女性っているから、自分はどうあれ(年上女性が好きかどうかはさておき)、「おぼこさ」というのは、利用できることではあるということだ。そういう男性、確かにいる。
7、台詞:せりふ
さらりと人前でしゃべれて、そこに度胸と論理が備わっていること。
「4、芸」にも通ずるところかも知れない。
人がたくさんいる中で、喧嘩の仲裁とか、口が立ちまるで芝居のセリフのように言葉が出てくるというのは、頼りがい、頼もしさにつながってくるのかも。
他を圧倒するのは意外にも、「芝居っ気」だったりしますから。
8、力:ちから
これは単に「◯kgを持ち上げられます」ということではなくて、ここぞというときに発揮できる「胆力」というのも含まれるのかも知れない。
それは次の「9、肝」につながる。
その割には例として、落語の中では「相撲取り」が出てくるけど。物理的に、ひ弱すぎて何もできないというよりは、「◯kgを持ち上げることができる」という方が頼もしく思われる場面、ある。力はないよりはある方がいい。
けっきょく女性はマッチョが好き、みたいなのも聞いたことある。
9、肝:きも
これは「8、力」や「4、芸」と同時に、度胸がある方がいい、ということだと思う。
ただ単になんでも怖がって逃げようとする人を、いいなぁと思うことってやっぱり少ない気がするし。いえ、そこは「6、おぼこ」パターンもあるから一概には言えない、か…。
10、評判:ひょうばん
「評判惚れ」という言葉が出てくる。
確かに本人を見たことなくても、よく知らなくても「あの人は素晴らしい」とか思うこと、男女問わずあるのかも知れない。
話を聞いて「すごい人なんだなぁ」「そんなことができるなんて、素敵だなぁ」と思ったり。会って最初の第一印象、より前の段階「第0印象」。
書類審査…みたいな?
逆に「あの人って、ちょっと胡散臭いらしいよ」とかいう噂が広まっている人は、例え有名であっても好きになられることはない、ということか。
どれも重要だなぁ…
どれも重要…重要すぎて「このうちひとつ!?」って思ってしまうが、1つでもあればモテる要素になる、というのがミソだ。けっきょく、落語の主人公はこのうちの1つも要素を持っておらず、「いもりの黒焼き」に頼ることになる。
いもりなどの爬虫類はその交尾途中に雌雄を引き離し、黒焼きにするとその情念(異性へのねちっこさ)みたいなものが残留思念として後を引き、焼いた煙が山を隔(へだて)てても一つになろうとする…などと言われていたようだ。そこから「いもりの黒焼きの粉は、異性を意図的に惹き寄せる効果が絶大にある」と信じられていた。かなり高価だったろう。
落語としての物語は、目当ての女性にこのいもりの黒焼きの粉を振りかけようとしたら横からピュ〜っと風が吹いて、横に積んであった米俵にかかってしまい、重いはずの米俵がゴトゴトと動き出し、この男を追いかけてくる…という風に進む。突然ファンタジーに。
恐ろしやイモリの効果。
人間じゃなくても、っていうか動物以外にも効くのかよ…よく袋に入れて持っていられたな…とか思ってしまうが、米俵はその重さと乗り移った情念で、建物をすら壊す勢い。
逃げまくる主人公。
「どないしてん!?」と問われ、逃げつつも「苦しい」と言う。
「何が苦しいんや!?」
「飯米(はんまい)に追われてまんねや」
という最後のセリフでオチとなる。
この「飯米に追われる」というのは「食う米にも困ってる」という意味なのだ。比喩表現。実際にコメに追いかけられてるという事実と「釜のフタが開かない」とか「ふところが秋の空」とかと同じような、「生活が苦しい」という表現が、かかってるんですね。
…そうか…そうなるとやっぱり「3、金」って大事ね、とか思ったりして…。
自分には10個のうち、いくつあるんだろう…と考えると即ヤバい。