今回は「決斗」。
前作は「血斗」でしたが。
ものすごい場所特定のされ方です。
神田から、浅草雷門へ。
パッケージもまさにそのもの、なんですけど劇中、雷門は出てきません。
実は慶応元年(1866年)の火災で(何度目かの)雷門は焼失しており、それ以来、様々な「仮設雷門」はあったそうですが、今作「日本侠客伝 雷門の決斗」の時代設定である大正15年には、現在のようなあの大きな門と提灯は、存在しないそうなのです。
1960年(昭和35年)に鉄筋造りの門を松下幸之助が寄進するまでは、雷門は浅草の象徴でありながら、実際には存在しない、まさに「仮の象徴」だったんですね。
いやいや、大正14年の写真がありましたよ?
【1925年】新建築(大正14年)▷雷門の復興建築
https://jaa2100.org/entry/detail/030265.html
リンク先の写真を見ると、提灯は小さいものの、ちゃんと建てられていますよね。
「なかった」こそが誤報で、実際は「あった」ようなんです。
現在の姿とは少し違いますが、「なかった」説が通って劇中に登場しないのか…どうなのか。
昭和41年(1966年)公開の映画なので、まさかセットで昔の小さい方の門を再現するのもアレだし、まぁいいだろう…ってなったのか。
そして、1911年(明治44年)ごろの仲見世(なかみせ)の様子。
明治時代のある日に撮影された、浅草寺・雷門の仲見世の様子。行き交う人で賑やかなのは、今も昔も変わらないようです。1911年刊行の『東京風景』からの一枚(電子展示会「写真の中の明治・大正―国立国会図書館所蔵写真帳から―」より)。https://t.co/q5lvV7OdU9 pic.twitter.com/3Bcv8cI6i8
— 国立国会図書館 NDL (@NDLJP) June 5, 2019
男は着物にハット。
手前の男性はハンチングをかぶってる。
女性は髪を結い、日傘を指してるんですね。左側通行っぽい。
左の奥に見えてるのはいわゆる浅草十二階(凌雲閣)ですかね。
「鬼滅の刃」のアニメにも浅草、出てきましたよね、鬼舞辻無惨(キブツジムザン)と炭治郎が初めて会う回で。今、確認してきましたが、確かに第七話にはっきり描かれてます。
原作の一コマ。
「鬼滅の刃」第二巻より
左端に、路面電車が走ってますね。
凌雲閣も大正12年の関東大震災で崩壊してるので、登場してるってことは鬼殺隊が活躍している時代は、それ以前だということになります。
そうなんです、「日本侠客伝シリーズ」の時代は、大正ロマンでもある「鬼滅の刃」と、ほぼ同じなのです。
浅草六区の、興行の世界。
また大阪弁の藤山寛美が出てる!
劇場を仕切る元ヤクザ(聖天一家。しょうてんいっか)、朝日座の興行主・平松源之助。
観音一家の代貸・青木(天津敏)はその権利を奪い、六区を掌握しようとする新興勢力の急先鋒。
やはり昔気質の男たちと、経済発展の波に乗る新興勢力との争いが、物語のベースです。
近代化…という意味ではいつも新興勢力、必ずしも社会的には悪ではないわけですけど、その勢力拡大にヤクザを使って暴力的な排除をしようとしたりするからタチが悪いんですね。
バブル時代には「地上げ屋」とか「経済ヤクザ」とかいうネーミングも出てきてましたし。
海軍から復員してきた、平松真太郎(高倉健)。
跡を継ぐために…と周りのみんなは期待しますが、元は自身もヤクザだった平松。
後継者にはならない、と固辞します。
これから浅草を盛り立てて…という時、父親・平松源之助は遺書を残して拳銃自殺してしまいます。
朝日座を売り渡してしまった責任を感じ、息子が戻ってきてくれて安心したのか。
興行社を解散させるつもりだったんですね。
平松興業社の莫大な借金の債権が観音一家にあるとわかり、組長の風間(水島道太郎)が朝日座の所有権を主張してきます。芸人や役者たちも、劇場を失ってしまって途方に暮れます。
その借金は、どうやってできたものだったのか…。
生前の平松源之助は、困窮した芸人を助けるために、細々と、たくさんのお金を貸していたんだそうです。そして返済は、受け取らなかった。
そうして出来た借金のせいで、劇場や会社まで取られてしまう現実。
父の男気を感じた真太郎(高倉健)は、喪主の挨拶でこう言いました。
本日は、かように盛大なるご会葬の縁をたまわり、
亡き父・源之助、並びに平松興業社社員一同になりかわり、
あつく御礼申し上げます。なお、父・源之助が体を張って守り通りた六区芸能界を、
不束ながらあたくし、今日より、引き継いで参る覚悟でございます。なにとぞよろしく、ご鞭撻のほど、お願い申し上げます。
テレビがない時代、「芸能界」というのは、浅草とか、劇場があるところにだけ、あったんですね。今では考えられない感覚、と言えるかもしれません。
「行かないと見れない」世界は、日常生活とは縁遠い場所にあって、常に非現実的な雰囲気を持っていたんでしょう。畏れながらも、蔑む存在でもあった。
「芸人」と言えば現在は、「お笑い」色が強いですけど、この頃は、役者も浪曲師も曲芸師も手品師も舞踊家も音曲家も含めた総合的な呼称が「芸人」です。
そういう時代の芸能人の象徴として、真太郎(高倉健)の幼なじみで人気の浪曲家、桜井梅芳(村田英雄)が登場します。歌声の時間もたっぷりある。
追い詰められている平松興業は、カタギとして観音一家にどうやって対抗するか、苦慮していました。
明日からどうすればいいんだろうか…。
その窮地を、当代一の人気を誇る桜井梅芳が救ってくれました。
しんちゃん・ウメちゃんの仲であった二人は、旧交を温める。
しかしどうしようもないほどのヤクザの攻勢に追い詰められ、仲間を殺され、それでも静かに祝言をあげる真太郎と千代(藤純子)。
そしてピストルと日本刀を携え、最後の決戦に乗り込むことに。
今回は鶴田浩二も出てこないので、なんと殴り込みを藤山寛美と二人で…という変則パターン。
しかも珍しく、袴を履いての刃傷沙汰。
ラスボス・風間東五郎(水島道太郎)を見事に討ち果たしました。
浅草芸能界が華やかな興行を進める一方で、悲しくも勇ましい復讐を果たし、服役に向かう主人公(高倉健)。
捕縛も拘束もされず、「もうひと航海してくらあ」と言い残して連行されます。
あっさりとした幕。
ほんとに雷門は出てきませんでした。
ーシリーズ11作ー
第1作『日本侠客伝』1964年8月13日公開
第2作『日本侠客伝 浪花篇』1965年1月30日公開
第3作『日本侠客伝 関東篇』1965年8月12日公開
第4作『日本侠客伝 血斗神田祭り』1966年2月3日公開
第5作『日本侠客伝 雷門の決斗』1966年9月17日公開
第6作『日本侠客伝 白刃の盃』1967年1月28日公開
第7作『日本侠客伝 斬り込み』1967年9月15日公開
第8作『日本侠客伝 絶縁状』1968年2月22日公開
第9作『日本侠客伝 花と龍』1969年5月31日公開
第10作『日本侠客伝 昇り龍』1970年12月3日公開
第11作『日本侠客伝 刃』1971年4月28日公開
…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。