自論構築過程

「わかりみ」。

投稿日:2017年5月13日 更新日:

台湾精選〜Best Collection 2016〜

最近いちばん面白いなぁと感じた表現は、「わかりみ」です。

なんでしょう、わかりみ。

「わかりみ」で検索してみると…

「”眠さ”しかない」「”わかりみ”が深い」→なんでも名詞に、どうして?
 https://news.yahoo.co.jp/byline/iotatatsunari/20160411-00055941/

最近ツイッターで使われる「○○み」って気持ち悪い? 匿名ダイアリーが話題、「つらみのニワカ感」という声も
http://blogos.com/article/213171/

などがヒット。

確かに、使われているのはごく一部ですが、気になっている人はけっこういるみたいです。

わかりみ、は「甘み」や「悲しみ」などと同じで、「○○は」「○○が」と使い方がしやすい、名詞的表現。

「甘さ」や「悲しさ」とどこが違うんでしょう。

「甘さが強い」と「甘みが強い」では、後者の方がより、客観情報の趣きが強くなりますね。

上に挙げた二つ目の記事の中に

「『○○さ』は客観の表現で、『○○み』は観測者の感性というか主観が混じっている感じ」
「『○○さ』は自分が受け取った感覚、『○○み』は対象の性質に重点を置いた表現」

と相対する意見も出ており、まさにニュアンスで使われる表現ということなのだろう。「バブみの超越したイメージに比べて、つらみとかのニワカ感は思う」という感想もある。

という部分がありました。

私は、後者を採りたいですね。

 

主観の強さは「○○さ」の方により大きく感じます。

続けて「甘さ」で考えてみると、「甘さ」は、感想なんですよ。感想の記憶。

「甘み」だと、究極的には「度数」で数値として表さなきゃならない。
感じ取る内容は同じだとしても、表現として、「甘さ」は「私がこれくらいに感じたんだからしょうがないでしょう!」と開き直れるけど、「甘みがある」と言い切ってしまったら「甘みはない」と言う人がもしいたら殺し合いです。

甘さは、言ってみれば主観です。ですから「青春の、懐かしい甘さみたいなものを感じます」という言い方ができる。もちろんここに「甘み」を入れることができなくはないけど、やっぱりそれでは厳密な感じがして、責任取れんの?と思ってしまう。

 

で、「わかりみ」です。

「わかりさ」という言葉はないからこそ、そこはかとない「おかしみ」が出てくるということになります。

「甘み」も「おもしろみ」も、「甘味」「面白味」という漢字を充てることができるということは、「味、の比喩」なんですよね。
甘味はそのままストレートに味覚の種類ですが、味覚って、匂いもあるし、滋養もあるし、後々の本人の精神にすら影響を与えかねないことでもあるので、「面白い」に味なんかないんだけど、「面白味」とすることで、それを「味わい、感得する」という状態を表現することに成功している。

「○○味」(←アジ、じゃなくてミ)という言い方が出来る言葉には、そういう「感覚の問題」が含まれている。

「わかり味」と書いた途端に、「わかる」という感覚が後々、精神や人生になんらかの作用を及ぼす可能性すら感じ取れてしまいます。

それをゆるく、柔らかく「わかりみ」という表現にすると、おぼろげではかなくて、一過性の強い繊細さを醸し出してくれますね。

「よくわかる」ではないんです。
「わかりやすい」ではないんです。
「わかりやすさが強い」ではないんです。
「わかる度が強い」でもないんです。

「よくわかる」「わかりやすい」だと、「わかったのはあからさまに自分という個人」という特定から絶対に逃げられない感が大きくなる。

「わかりやすさが強い」なんて書き方したら、意味は同じでもちょっと気難しそうな人だと思われそう。

「わかる度が強い」も用法は同じなんですけど、「おかしみ」が足りない。

「わかりみ」は、いったん自分の理解度とは離れて、客体的な事実としての指標を、名詞にして、少し離れた時点から眺めるような視点が含まれています。

たいていは「強い」という方向で使われることが多そうなことも、それを示していますね。
「わかりみが弱い」という言い方もないことはないんでしょうけど、自分の感覚に正直でストレートならば本来、「わかりにくい」で済むことですし。

「わかりにくい」は、「とにかくこの俺にとってはわかりにくいぜ」という、自分の読解力・理解力の低さのせいかもしれないという要素が入ってきます。
「わかりにくい」場合は、自分の感覚のせいでもあるので、正直にそう言えよ、っていう感じです。

上に挙げた記事の1つ目の、五百田達成(いおたたつなり)さんの主張とほぼ同じことをここに書いているだけなんですけど、氏も

「○○み」「○○さ」は、自己を隠し、他人に同化しようとするきわめて日本人的な言い回しであり、現代的なコミュニケーショントレンド。

危なさしか感じないし、心配みが深まるいっぽうです(笑)

とおっしゃっています。

しかし私は、「○○み」「○○さ」の、意味は同じでもその「おかしみ」の差には着目しておきたいなと思います。

新しさから言えば「○○み」の方がまったくおもしろみが強い。

これは同列の扱いにしてはいけないのではないかと思います。

 

そして「心配み」は違うでしょう

いえ、おっしゃることと諧謔は理解しているつもりですが、「漢字2文字+み」は、違うでしょう。

「危なさ」→「危なみ」の方がおかしみが増されます。

たぶんこの「○○み」って、料理番組とか、グルメ番組とかの、怒涛のような「旨味」「うま味」「UMAMI」という、ウマミ攻撃から派生したんじゃないですかね。

「旨味が強い」
「甘味が広がる」
「辛味のあとに旨味が」
「素材の旨み」
「ダシの旨味」

など、聞き慣れた常套句となった「うまみ関連」が、「○○み」を生む素地になっているのではないでしょうか。

平安の昔、いわゆる「和歌」を詠む場合、そこに、新しい表現が入っていないといけなかった、というルールの話を聞いたことがあります。

今にも残っている「はんなり」とかもそうなのかな。
「たまゆら」とか、そうでしょう。

「それを、そう言うか!」という新しさが、文化であり遊戯であり政治であったわけでしょう。

新しい言葉が生まれる時、それは良くも悪くも「文化がズレ出している」ことを表しているのだと思うんです。
既成の表現では、感情や状態が、正確に表わせない。
だから、少しズラした状態で、まったくの新語ではないにしても「新表現」が生み出される。

最初は、意味が通りにくくても、同時代に生きていると、スッと腑に落ちる人が多く出てくるんですよね。

そして、いつのまにか「新しくて使いやすい」ということで広まっていく。
もちろん、すぐに衰微する言葉・表現もたくさんあるでしょう。

ただ、変化するのは言葉ですが、それを発するのは常に人間です。

言葉が勝手に変わってるんじゃなくて、実際は「使う人間の環境」が変わっていってるんですよね。
生活スタイルが変わり、人生についての感覚が変わり、目の前の事象も激しく変化する。
そんな中「ちょっと違う言い方しないと納得できない」という淡い反抗心や義侠心、または微かな自己顕示欲、さらに現代ならでは匿名性が、「ほんの少しだけの分かりにくい表現」に踏み込ませる。

小沢健二は新曲「流動体について」で、

意思は言葉を変え
言葉は都市を変えてゆく

と歌っていますが、まさにそうで。

無理やり小沢健二の「流動体について」について考えてみる実験

そうやって、感情や環境の小さな変化が言葉を変え、長い年月をかけて、都市すらも変えていく。

そう言えばこないだ郵便受けに入っていたマンションのチラシには

「○○丘に誇り継ぐ暮らし」

と書いてありました。

「誇り継ぐ者」という表現ならわかりますよ。
「を」が省略されている形ですからね。

でも↑の場合、「誇り継ぐ」を、一つの動詞として扱おうとしてるんですよ。
「語り継ぐ」みたいな感じで。

思わず「ホーーーー」と声、出ましたね。

 

「誇り継ぐ」は果たして、自動詞なのか?

「よし、誇り継いでいくぞ!」なんていうサブい行動が、どこかに存在するのか?

マンションポエム、なんて揶揄されるこれらのコピーですけど、ひょっとしたらこういうところからも、なんらかの文化的変化が、起こるのかもしれない。

いや、ひょっとして「流動体について」のあの一節は、マンションポエムのことを言ってたのか??

 

 

 







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執筆者:


  1. しんや より:

    そもそも今や定着した「~みたいな」も婉曲的に表現し、衝突を回避するための方策でしょう
    本来はみたいなは名詞(体言)につくものでした。幽霊みたいなのような使い方です
    ところが動詞(用言)につく用法が出現し、今ではどこでも使われています
    大声出すみたいなのような使い方です
    多分、わかるかかわからないかの二択だと角が立つので、あくまで主観としてわかるであって、あなたにそれを強要するわけではないというニュアンスなんでしょうね
    自分はそういう表現は好きでないので聞こえないふりして流してしまいそうです
    それは同時に「わかりみなんて聞きたくないんだよね」とまでは言えない故の方策です

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