鎌倉殿の13人

鎌倉殿の13人 第39回『穏やかな一日』

投稿日:

大海の

磯もとどろに

寄する浪

破れて砕けて

裂けて散るかも

源実朝

穏やかとは…

畠山重忠(はたけやまのしげただ・中川大志)の誅殺、そして北条時政(ほうじょうときまさ・坂東彌十郎)追放から約8年間、束の間の、静かな鎌倉が戻ってきます。
北条ヨシトキ(小栗旬)が実権を握り、鎌倉幕府の運営を主導的に進める間、ああ、御家人同士の鬱憤が溜まるにはじゅうぶんな時間だった…と言えてしまう悲しさ。

承元2年から建暦元年までを1日で描く、と長澤まさみさんにカメラ目線で言われてしまいましたね。

この4年間(1208年〜 1211年)、穏やかな日常が永遠に続く、とみんな思ってたんでしょうか。

いや、おそらく誰も思ってない。

天然痘を患っていたという源実朝(みなもとのさねとも・柿澤勇人)、もし彼に何かあったら「後継者は善哉(ぜんざい・高平凛人)」というセリフになってましたが、これってどうなんでしょう。あの源頼家(みなもとのよりいえ・金子大地)の息子で、源実朝の猶子になっていた善哉。彼は成長し、公暁(こうぎょう・寛一郎)となりました。

猶子は、「なほ子のごとし」と読み下すように、養子なんですが後継権がなかったとされています。時代によって地域によってそこは違うのでしょうが、「源実朝の後継者が善哉」であれば、候補1人であれば、出家させるのはおかしいでしょう。「善哉は鎌倉殿候補にはなっていない」からこその出家でしょうし、出家させるのは「世俗における出世街道からは外す」ということを内外に示す効果がある。同時に命を守る。北条政子(ほうじょうまさこ・小池栄子)のはからいだそうです。

そして病気を克服したとは言えまだ若干16、7歳の源実朝がいくら気張っても、権力絶大になった北条ヨシトキと北条政子に対抗できるような状態ではない。さまざまな訴訟を決裁するという政治そのものに関わっている実感も実権もなく、だからこそ滞りなく、鎌倉政治は進んでいた部分もあったでしょう。「私がやるのだ!」と将軍が息巻くと、源頼家の二の舞になるから。

だけど、源実朝は頑張っていたのです。
承元3(1209)年、高野山が幕府に訴えを起こしました。高野山の荘園である備後国太田荘の地頭(の現地役人)が、年貢を納めないと。幕府が任命した地頭は勝手に罰したり解任したりできないので、高野山は幕府に言って来たのです。高野山の地頭は三善康信(みよしやすのぶ・小林隆)です。高野山の使者と三善康信の代官が鎌倉殿の御前で口論する事態になり、それを彼はやめさせ、両人を追い出し、審理を保留すると裁断しました。彼は大江広元(おおえのひろもと・栗原英雄)や北条ヨシトキに頼らずに裁定しており、だんだん、ただのお飾り将軍ではないという実力を身につけていったのだと最近の研究ではわかって来ています。単に「王朝文化にかぶれて歌ばかり詠んでいるおぼっちゃん」というわけではなかったようです。
ドラマのシーンとしては「北条ヨシトキの専横に文句を言えない将軍」という雰囲気でしたが、実際は違ったということですね。

 

子ができなかったからこそ

天然痘は当時は「疱瘡(ほうそう)」と呼ばれていました。
二代・源頼家も罹った。
ロシア皇帝ピョートル2世も、フランス国王・ルイ15世も疱瘡で死んでいます。

1977年のソマリアでの患者発生を最後に、地球上に天然痘ウィルス罹患者はいないと発表されました。
いないと言ってもウィルスは、アメリカ・アトランタの疾病管理予防センター、ロシア・ノボシビルスクの国立ウイルス・生物工学研究所の2ヶ所で保存されています。ここがもしテロリストに襲撃されウィルスが持ち出されたらどうするんだ!という懸念もあるようですが、だからと言って研究をやめて「永久に完全に破棄します」の害の方が、人類には大きいのではないでしょうか。

鎌倉時代(だけではないが)、主に子供が罹患して命を落とす恐ろしい病気だった疱瘡。
ここから回復した源実朝には、水疱のあとが残っていたという説もあります。
かなりの高熱を出し、それが元で生殖能力がなくなってしまったとも…。
人類は天然痘のワクチン登場を、1796年まで待たないといけないのです。

源実朝と千世(坊門信子・加藤小夏)の間には子供ができませんでした。
だからこそ、慈しみ合う2人。

彼が長生きしてればもちろん可能性はあったかも知れませんが、「まぁ、もう無理かも」と早々に北条ヨシトキ・北条政子は判断しており、だからこそ次はどうしよう、というのが鎌倉幕府の最大の悩みの種になっていた。

政治の形態を変える??

守護を交代制にしよう、と北条ヨシトキは大江広元に言い出します。
世襲させないことで地元との癒着を防ぎ、力の偏りを失くすために。

これは、御家人からしてみれば「先祖代々の土地を捨てろ」と言われているに等しい。
絶対に許容できない内容です。
一所懸命、つまり土地には命を懸ける値打ちがあり代々受け継ぐ。
それを安堵されるからこそ鎌倉殿に奉公し、付き従ってきたのだという自負がある。それを「配置換えは鎌倉で全部決めるから。北条は別だけど!」と言われて、納得できるわけがない。恨みが募らないわけがない。「国司はそのままで構わぬ」なんてことが、怒りを買わないわけがない。表面上は逆らえないけれど。この計画は頓挫しますが、政治改革は常に、既得権益を持つものから恨みを買うのですね。

実はこの頃、北条ヨシトキは源実朝に対して「ウチの家来を御家人に…」という願いを出し、却下されています。

意外にサムライになることを許さない幕府

鶴丸(つるまる・きづき)に平盛綱(たいらのもりつな)と名を与えた勢いでこの願い出→却下騒動が起こっています。
ドラマのここにこれを差し込んで来るとは見事であります。
逆に、このエピソードは「穏やかな一日」回でないと放り込めない。

ドラマでは鎌倉殿がビビって折れてしまい、だけど北条ヨシトキが従いつつしっかり脅す…という構図になっていました。まだ10代の将軍と、貫禄じゅうぶんの50代の北条ヨシトキ。

それは通るのにそれは通らないの?不思議にも思えることが度々出てくるんですが、そこには史料(『吾妻鏡』)に表れてこない何かがあったのだな…と考えると、人情ドラマとして深いものになりますね。

 

やたら仲良し和田義盛

征夷大将軍であり、従三位に叙され公卿に列せられた高級貴族である源実朝に直にお願いできるような距離感を持っている(ように描かれている)和田義盛(わだよしもり・横田栄司)。
自宅でも野趣あふれる形式で酒膳を囲んでおり、近所のおっさんの親しみやすい風情を醸し出していましたが、彼は鎌倉幕府草創の生き残りであり、武力随一の長老でもある。
孫の和田朝盛(わだとももり)は、源実朝の側近として仕えています。

彼が「上総介にしてほしい」と源実朝に言い出しました。
官職は、将軍が朝廷に推挙する、という手順で任命されることになっており、左衛門尉(さえもんのじょう)のままの和田義盛は、人生の最後に(もう60歳を超えている)家格を上げて一族を安泰に…と考えたのかも知れません。
源頼朝以来、国司になってよいのは源氏一門だけと定められており、例外は北条氏と大江広元くらい。
つまり和田義盛は、北条の専横を防ぐため、自らの権力と威厳を高めておこうとしたのでしょう。
そこには北条氏以外の御家人たちの、静かな意見が含まれていたのかも知れない。
和田殿ならばそれをやってくれるに申し分ない功労者、なわけだし。

北条氏でさえ「ウチの郎従を侍に…」は通らない硬直システムなんですけれども(先掲の弊記事を参照)、「北条は酷すぎる」が御家人の中に、やはり溜まっていく。

「親しいおじさんに頼まれたからってそれはダメよ」と、相談した源実朝に北条政子はあっさりダメ出しをします。
これを母である北条政子が決めてるという点も、なかなかすごいですよね。
その後、和田義盛はお願いを引っ込めるのですが、これも北条氏に対する恨みの火種になっている。
ああ、もはや「これのどこが穏やかな1日なんだ…」と言いたくなるほどの緊張感に満ちています。

「和田には、三浦がついています」と大江広元は囁きました。
三浦本家の当主は三浦義村(みうらよしむら・山本耕史)ですが、和田義盛とは親子ほども歳が違います。
貫禄も違う。

兵力において鎌倉で、キャスティングボートを握る本家・三浦義村は、常に間違わない選択(勝つ側につく)をしています。だけど近い親戚である和田に味方して北条を滅ぼす、というのは悪い選択ではないはずなんです。

それにしてもどれも、執権・北条と将軍との軋轢を感じさせる暗鬱で、陰険なエピソード群になってきましたね…。もはやその実体は「穏やかな“だけ”の1日」…。

 

スパイ?源仲章

なぜか少しだけ不思議な、含みを持ったキャラとして描かれている源仲章(みなもとのなかあきら・生田斗真)。彼は院近臣の家に生まれ、後鳥羽上皇へ鎌倉の様子を伝える役割も負っていたため、京のスパイ、いやそう見せかけて鎌倉サイドとして上皇の意向を探る二重スパイだったのではないか、とも言われています。なぜそこまで言われてしまうかというと、それはやはり「6年後の雪の日」に原因があるのでしょうね。

 

今回の『鎌倉殿の13人紀行』は、ここでした。

十国峠・源実朝の歌碑

鶴岡八幡宮

 







-鎌倉殿の13人
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