鎌倉殿の13人

じつは源氏も平氏もごった煮。

投稿日:2021年4月10日 更新日:

源平討魔伝 ~参拾周年記念音盤~

源氏と平氏は戦って、覇を競い、上がったり下がったり。

源氏は平氏によって没落。
その後、平氏は源氏によって滅亡。

滅亡とは言え、じゃあ平氏はまったく日本に、一人もいなくなったのか?
落人(おちうど)として逃げ隠れするしか、平氏には生きる術はなかったのか?

答えとしては、ぜんぜん、そんなことないんです。

というか勝手に、学校で習った感じだと「平氏、壇ノ浦の戦いで滅亡」っていうフレーズだけ覚えてて、「平氏って何」「源氏って何」っていうこと自体を、考えたことなかったという感じ。

天然痘とかドードーみたいに「平氏絶滅」のイメージを持ったまま大人になってる人、多いはずです。

だけどよく考えたら、そんなわけがないじゃないですか。
実際はもっと、単純で複雑です。

源(みなもと)や平(たいら)は、天皇から賜(たまわ)った氏。

天皇の子供はたくさんいるわけですが、その中で、天皇になれるのは一人。

他の子供は「王」となり、朝廷で重要な仕事をしたり、お寺の偉い人になったりする。
天皇家から出て、臣籍降下する人もいるんですね。
一般人…ていうわけではないけど、皇族ではなくなる。

その場合、天皇家にはそもそも「名前しかない」から、氏を賜(たまわ)ります。
それが源(みなもと)や平(たいら)。

桓武天皇(かんむてんのう。天平9/737年〜延暦25/806年)の息子に葛原親王(かずらわらしんのう)という人がいて、その息子である高望王(たかもちおう)が臣籍降下して、平高望(たいらのたかもち)になった。

「桓武平氏」と呼ばれるのは、これが理由なんですね。
桓武天皇の系譜だ、と。

「天皇家に連なる家系」というのはそれだけ、血筋が高貴であって支配者たる正当性を持つ、と胸張って言えるものであったわけだし、「家格」の上下は価値観として、揺るぎないものだったということでもあります。

で源頼朝は、「清和源氏」。
これは清和天皇(嘉祥3/850年〜元慶4/881年)の子供から出た名前です。
そもそも源氏には21もの流派があって、清和天皇の子供は4人、16人が「源さん」になっています。

そう考えると、日本において天皇が「万世一系」なのであるならば、天皇どうしはみんな血のつながりがあるのだから、源氏と平氏もみんな親戚、ということになりますよね…。

そうなんです、実は近い。

もはや我々は、「源平」と聞くと「合戦」とか「討魔伝」とか、戦いや熾烈な権力争いを瞬間的に想起するようになってしまってますが、本来は源も平も「元皇族として繁栄すべき武家」っていう感じだったはずです。

少なくとも「有力貴族、凄すぎる発展もしたけれど」という、(武士ではない)藤原氏とは、ニュアンスが違うということですよね。

源氏はずーっと源氏の血脈だけで続いてるとか、源氏には平氏の味方はいないとか、そんなことはぜんぜんなく、もう、ごった煮です。

いつの時代も「あ!お前、平氏なのか!!」と気づかれて殺される、とかいうことではなくて、味方かどうかはその家系、どころか個人個人で「是々非々」。

 

皆様にはここで、この系図を見ていただきたい。

 

一番下が鎌倉幕府将軍・源頼朝、です(そしてその子、頼家&実朝)。

さかのぼっていけばすぐにわかるように、源義家(みなもとのよしいえ)は、父・源頼義(みなもとのよりよし)と、桓武平氏の平直方(たいらのなおかた)の娘(名前はわからない)の間に生まれた子供です。

系統は何、と言われたら父系社会としては「清和源氏」と答えるしかないのかも知れませんが、「先祖は誰」と聞かれたら、「清和源氏と桓武平氏」と、両方を挙げざるを得ないでしょう。

「平氏になった高望王」、平高望の息子・平国香(たいらのくにか)には弟が4人おり、そのうちの一人が平良将(たいらのよしまさ。良持・よしもちと呼ぶ説もある)です。

この人、平将門の父親なのです。

つまり平国香は平将門のおじさんに当たり、この二人の親戚同士の戦いは、平将門の乱につながっていくきっかけの一つにもなります。

平国香の息子が平貞盛(たいらのさだもり)。
平の将門を討伐した人、です。

この人の四男・平維衡から伊勢を地盤とした伊勢平氏につながり、平清盛を輩出することになります。

 

なんなんだ…広い意味で言えば、みんな親戚じゃないか…。
平将門と源頼朝って、親戚じゃないか…。

本来は「武士」というカテゴリーで、みんなで結束すべきだったんじゃないのか、とすら思えます。
だけどそうはいかなかったのですね。

武家の台頭は、朝廷や摂関家に仕えることで勢力を拡大して進みました。

だけど源氏と平氏は、武士という新しく、役に立ちそうな身分でありながら、大きくなれば抑えられ、広がろうとすれば警戒され、という権力構造の中で「貴族のいいように使われる存在」だったのですね。

源氏が完全に勝ってる時があって(源義家のころ)、それを警戒されて逆に平氏が重用されるようになった。源氏が劣勢を頑張ってひっくり返そうとして失敗したのが保元・平治の乱で、決定的にヤバかったんですけど平氏があまりにも強くなり過ぎていることは、朝廷にとって、摂関家にとって、やっぱりあまり良い状態とは言えなかった。

なのでいつも通り、「平氏がイキり過ぎたら源氏よ!」という風に、バランスを取ろうとした。

そしたら源氏が強くなり過ぎて、鎌倉に幕府まで作っちゃった、っていうことになってしまった。
その頃にはもう、武士の世の中が決定的になってしまってた…と。

なんとか平氏と源氏を戦わせて、漁夫の利で権力を握り続けようとした朝廷は、その意味では時代を読み切れていなかったんですね。

…というか源頼朝は、平清盛の失敗の轍を、絶対に踏もうとしなかったんです。

京都で太政大臣にまで成り上がる、という栄達の道を完全無視して、鎌倉からへたに動かなかった。

そもそも皇族に連なる家柄ではありながら、武士であることを最重要視した。
やっぱり伊豆で20年、流人として地元の豪族の中で過ごしたことが大きく影響したんでしょうね。

そして、源頼朝が頼りにした北条氏も、三浦一族も、畠山も、みんな平高望(平将門のおじいさん)から派生した「坂東平氏」なのです。

なので、鎌倉幕府の御家人はほぼ平氏。
つまり鎌倉の源氏政権を支えてるのは平氏。
壇ノ浦で平氏を滅亡させたのも兵士は平氏。

ややこしいですけど、そもそも「源氏が平氏か」は簡単には、分けられないものなのですね。

もっと是々非々で、場面で、局面で、政局で、個人で、「どっちにつくか」は決められていたのでしょう。

実際、源氏政権である室町幕府を事実上、倒したんだから織田信長は平氏なのだ…というような考え方が、あったのだそうです。その考え方が先にあったのか、織田信長がそう言い出したからその説が流布したのか…はよくわかりませんが。正当性が欲しかったというところでしょうか。

「そうでなくては内ゲバではないか」ということですよね。

織田信長がほんとに平氏かどうかは、わかりません(「藤原」を名乗ってた記録もある)。

偶然にも織田信長を倒した明智光秀は源氏(土岐氏の出ならほんとに源氏)。

その明智光秀を倒したから豊臣秀吉は平氏(農民の出だったから完全に嘘)。

なのでその豊臣氏を滅ぼした徳川家康は、自動的に源氏ということに…。
新田(新田義貞などが有名)の流れ(の得川氏の末裔)だと自称していたそうですが、そんなものはわからない。

新田氏はほんとに源氏ですけれど、言ってみればもはや後付けでなんとでもなるのが「源氏と平氏」と言えるのかもしれませんね。

だって源頼朝の時点ですでに、平氏の血が流れてるんだから。
戦国時代になるともう、そんな「氏」は実質的な意味を持っていなかったのでしょう。

 

源氏と平氏のややこしさは、紅白歌合戦の紅組にYOSHIKIがいるよりややこしいのです。
ちなみに「紅白」のルーツは「源氏が白」「平氏が紅」の、源平合戦にあります。

 







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