仁侠ものチャレンジ

日本侠客伝 斬り込み

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日本侠客伝 斬り込み

今回は、殴り込みから始まります。
どうやら客人とし世話になってたことの恩返しに、襲撃に行くことになった渡世人。

早朝の寝込みを襲う中村真三(高倉健)。
相手に恨みもないけれど、渡世の義理で叩っ斬り、そのまま逃亡することに。

なんと子連れなのです。

義理を背負った男なら
笑われようとやるだけさ
こんな浮世にゃ未練はないが
可愛いこの子があるかぎり
俺の命をかけるのだ

これオープニングの歌詞なんですけど(歌唱:高倉健)、なんだかすごい矛盾を孕んでるなぁ、という内容だったりしますね。

義理が発生すると、それに報いないといけないのが侠客(おとこ)であると。

中村真三(高倉健)の場合、半年もの間、世話になった一家に恩返しをする義理が発生しています。

渡世人としてはどこかで働いて自立して…という選択肢はないので、

1、世話になる

2、義理の発生

3、恩返し

の繰り返しなんですね。

今回はその3、が人殺しだっただけで。

笑われようともこのサイクルは崩さないのが渡世人というもの…だとしたら、その過程で命を落とすこともいとわない…ということになってきます。なので「こんな」「浮世」、つまり世間、なんかには未練はない…と言いたいところなんですが、今回は「可愛いこの子」がいるんです。

なのに「命をかける」という、よくわからない結論になってしまってるのが不思議です。

自分の着物を質に入れても、子供の入院費には足りない真三。

必死の面持ちでこの地域のテキヤの親分、傘屋源蔵一家を訪ね、たまたま居合わせた娘(藤純子)に仁義を切る真三。

京(藤純子)は、娘でありながら玄関で

手前、旅中です、お控えなすって。

さっそく、お控えなすって、ありがとうさんでございます。

手前、生まれは九州です。九州は小倉です。
渡世、縁持つ親はありません。

姓名の義を発します。
中村、真三です。

以後面体お見知りおきの上、よろしく、お頼申します。

という挨拶を受けましたが、彼女は

あの…せっかくのご挨拶ですが、当家は神農道を守る稼業人…

と言います。

ヤクザじゃないの?同じじゃないの?

という感じですが、ここ、昔は、きっぱり、分かれていたものなんですね。

博打、ギャンブルを稼業とする「博徒(ばくと)」と、テキヤを稼業とする「神農(しんのう)」と。

神農というのは中国の、伝説の皇帝の1人。三皇五帝のうち、炎帝のことを言います。
農耕を人々に教え、農具を発明し、商品交換で貿易をすることを広めた人。「人」と言っても体が人間で顔が牛だったという伝説になっており、その割にはあまり逸話は多くもないそうです。

テキヤの人たちのことを「香具師」と言いますよね。これを「やし」と呼ぶのは失礼な言い方だそうで、やはり「こうぐし」と呼ぶのが正しい。全国を旅する香具師たちは、時の権力者のスパイとなり隠密活動に協力することもあったそうで、その見返りに、各地での商売を許可されたりした…と。定住の基礎とも言える農業の神である神農と、全国を経めぐる不定住の民である香具師が「ヤクザ者」というつながりをもっているというのはなんだか合理的でもあるし、不思議でもあります。

ちなみに薬草を舐めて見極めたり、占いや法というものを考えたのも神農、だそうです。

親分、傘屋源蔵の侠気に助けられ、ここに「義理が発生」した中村真三。

元気になった子供を小倉へ1人で行かそうとします。
突然の別れに泣く子供、そりゃそうですよね。めちゃくちゃです。理由も言わないんですから。
まだ8歳くらいでしょうか。珍しく、涙のシーンです。

ところが以前の感謝を伝えに傘屋源蔵宅を訪れ、また義理が発生してしまいます。

子供を救われ、とてつもない恩義ができ、傘屋源蔵親分も中村真三になぜかものすごく肩入れします。

いつかお前さんが東京で神農道の本筋にかなった一家名乗りをあげたときに、この傘屋源蔵の夢が実現するんだ

なんだかここ、展開が早いというか、親分の人を見る目がすごいというか…。
中村真三は、どこかで人を切って逃げてきてる人なんですよね。

新宿へ来て、絵本で「売(バイ)」を打っていると、「ねえねえ」と声をかけられます。東京っぽい。
新宿街商同盟、という組合に参加しないといけないんですが、ここで、組織同士のもめごとに巻き込まれます。

それにしても弁天福(金子信雄)が声を出すととつぜん人だかりができるシーン、凄すぎます。

どれかの本に、1円が挟まってる!という触れ込みをするんです。

買って当たればおなぐさみ、当たらなくても嬢ッちゃん坊ッちゃんが喜ぶ衛生大臣文部大臣ご推薦のご本だよ

と。
確かに買いやすい。これが啖呵売だ!っていう感じですよね。

「衛生大臣」という言葉が出てきました。
おそらく今でいう「厚生労働大臣」ですよね。

衛生省、というのがあったかというと無くて、内務省の中にあった「衛生局」のことを指します。
だから厳密には「衛生局長」が正しいんじゃないかと思います。または「内務大臣」、か。

現在は、厚生省と労働省が一緒になって厚労省になり、文部省と科学技術庁が一緒になって文部科学省になったんですよね。内務省は敗戦後、GHQによって解体されました。

内務省は言ってみれば「国内務」をすべて率いる組織で、警察も消防も土木も神社も、あらゆる権力が集中していた場所だったそうです。
悪名高き特高(特別高等警察)も、内務省の管轄下でした。

 

殴り込まずにはいられない状況に…。

新宿の新興組織・相州組とのぶつかり合いを助け、中村真三の活動は順調に見えましたが、「東京神農組合」の設立をめぐる権力争いが、東京の組織によるせめぎ合いの中で起こっていました。

相州組と関東花若一家との軋轢に巻き込まれる形で、警察沙汰や刃傷沙汰が起こる中、中村真三は新たな一家を創設することに。

これは言ってみれば傘屋源蔵との約束を果たしたわけで、…だけど新宿の勢力争いはかなり熾烈。

助け続けてくれた関東花若一家の若松幸次郎(大木実)が相州組に撃たれてしまい、ついに中村真三は立ち上がります。

封印した刀を女房になったお京(藤純子)から受け取るも(封印を口で切る!)、「あの野郎を斬るには…もったいねえよ」と固辞。

1人で殴り込みを敢行する中村真三。

今宵切らせた封印は
俺とお前の幕開きだ
何にも言うなよそれから先は
男稼業にゃ明日はない
これがおいらの花道だ

やると決めたらどこまでも
俺がやらなきゃ誰がやる
男一匹曲がった道は
踏みもすまいが踏ませない
俺の命のある限り

しかしいきなりピストルを突きつけられます。

とうとうネタ割りやがったなこのやろ。すーっとしたぜ

と言い放つシーン。

拳銃は、なんなんだろう。

南部十四年式拳銃、に見えます。
その名の通り「十四年式拳銃」は、大正14年に日本陸軍の制式拳銃となったもので、ルガーP08に似てますけどその機構は全然違うものになっています。

モデルガンとかで復刻した形を見ると、映像に出てくる銃とは、デザインが若干違うんですよね…。

至近距離から肩を撃たれてしまいましたが、銃を奪いました。
ガンガン撃ってるとあえなく弾切れに。
着流の背中には「南無阿弥陀仏」の文字が染め抜いてあるその姿はまさに鬼神。バッタバッタと斬り進んでいきます。

助っ人たちも駆けつけ、相州組の事務所は大乱闘に。

弁天福(金子信雄)もエンマの辰(長門裕之)も大活躍です。

今回、そういう「ふたつ名」というか「通り名」が豊富に出てきます。

ドッコイ(安潮健児)
風天虎(畑中伶一)
喧嘩鉄(阿波地大輔)
コットン松(川谷拓三)

コットン松て。綿花なの?「綿花(cotton)の松」ってこと?

見事に敵討ちを果たし、逃げるんだ、と勧められました。

 

すると突然、シーンは変わって賑わう縁日。

何年経ってるんだ…ここのつながり、まったくわからん。
子供も出てこないので、時系列が不明。
逃げたのか、あのあと逮捕して服役してたのか…。

縁日では、露天商が活躍してる場面が描写されるので、平和な日常がテキヤに戻ってきたのでしょう。

その中で、エンマの辰(長門裕之)が茶碗を売る口上を述べてるんですが、

どやお前聞いてんかこの音色、ええ音色やろ?色艶もええ、買うかおまはん、買わんのか?え、これ、これ、なんちゅうたおまはん、今戸(いまど)焼?今戸焼はタヌキやがな、これはお茶碗やで、おまんま食べるお茶碗や、お茶碗というものは清水(きよみず)か瀬戸(せと)である、ご存知か、これは上等の方、清水の舞台から飛び降りるっちゅうあの清水焼や!

というんです。
今戸焼はタヌキ???

タヌキは、信楽(しがらき)ですよね???

 

これって常識だったんでしょうか、「今戸焼のタヌキ」。

調べてみると、

奥様の鼻が大き過ぎるの、顔が気に喰わないのって――そりゃあ酷い事を云うんだよ。自分の面あ今戸焼の狸見たような癖に――あれで一人前だと思っているんだからやれ切れないじゃないか

という箇所がある作品の存在が浮かび上がってきました。

その作品の名は。

「吾輩は猫である」です。

https://aozora.hyogen.info/detail.html?url=635206397

「見たような」っていうのは、文脈からすると「みたいな」っていう意味でしょうね。

「吾輩は猫である」、は高校生くらいの時に、あまりにもこういう、知らない言葉がボコボコでてくるんで、ノートに書き留めて、調べながら読んでたことがあります。

まぁ、なんて知識良くなんでしょう勉強のできる御曹司は違うわねえ、とかそういうことではなく、「吾輩は猫である」はあまりにも当たり前のようにわけのわからない言い回しが慣用句のように出てくるので腹が立ったのです。

その中で、今でも覚えているのは1個だけなんですけれど、「行徳の俎」という言葉が出てきたんです。

「ギョウトクのマナイタ」と読みます。

行徳、というのは千葉県の行徳。

海際の街です。

「吾輩は猫である」では、こういう風に登場します。

迷亭君は気にも留めない様子で「どうせ僕などは行徳の俎と云う格だからなあ」と笑う。「まずそんなところだろう」と主人が云う。実は行徳の俎と云う語を主人は解さないのであるが、さすが永年教師をして胡魔化しつけているものだから、こんな時には教場の経験を社交上にも応用するのである。「行徳の俎というのは何の事ですか」と寒月が真率に聞く。主人は床の方を見て「あの水仙は暮に僕が風呂の帰りがけに買って来て挿したのだが、よく持つじゃないか」と行徳の俎を無理にねじ伏せる。「暮といえば、去年の暮に僕は実に不思議な経験をしたよ」と迷亭が煙管を大神楽のごとく指の尖で廻わす。「どんな経験か、聞かし玉え」と主人は行徳の俎を遠く後に見捨てた気で、ほっと息をつく。迷亭先生の不思議な経験というのを聞くと左のごとくである。

何度も何度も連続で出てくるくせにけっきょくここでは「行徳の俎」がなんのことなのか、わからないんです。

実は行徳は、昔、「バカ貝」が多く獲れたんだそうです。
現代で言う「アオヤギ」(とは限らないそうですが)、「アホウドリ」と同じく、いくら貝だからってそんな罵倒を名前にされるいわれはないと思います。

一説には、同じくよく獲れた場所、今の幕張(当時は馬加→まくわりという名前だった)を音読みしたものから来ている、とも言われています。

他には「馬鹿が、ハマグリと間違って喜ぶから」という説もあるそうです。
それならバカは人間ってことじゃないか。

で、その「バカ貝がよく獲れる行徳」では、調理も当然よくされるわけで、行徳の、家にあるマナイタは、バカがよく乗っている、っていうことなんです。

つまり「行徳の俎」というのは「バカ」っていう意味なんですよ。

 

あーめんどくせえ夏目漱石。

 

 

 

 

ーシリーズ11作ー

第1作『日本侠客伝』1964年8月13日公開
第2作『日本侠客伝 浪花篇』1965年1月30日公開
第3作『日本侠客伝 関東篇』1965年8月12日公開
第4作『日本侠客伝 血斗神田祭り』1966年2月3日公開
第5作『日本侠客伝 雷門の決斗』1966年9月17日公開
第6作『日本侠客伝 白刃の盃』1967年1月28日公開
第7作『日本侠客伝 斬り込み』1967年9月15日公開
第8作『日本侠客伝 絶縁状』1968年2月22日公開
第9作『日本侠客伝 花と龍』1969年5月31日公開
第10作『日本侠客伝 昇り龍』1970年12月3日公開
第11作『日本侠客伝 刃』1971年4月28日公開

 

…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。
Amazonにて万事万端よろしくお頼もうします。







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