主役は高倉健です。
なので、作品を鑑賞してからこのパッケージに戻ってみると、違和感を覚えますよね。
萬屋錦之介(中村錦之助)が完全に主役…という扱いですけれど、出てるのは重要ポイントだけ。
どちらかと言うと、「昭和残侠伝」の花田秀次郎(高倉健)のポジションというか。
主役は高倉健です。
しかしこの時点(1964年)では、中村錦之助とでは人気・実力に雲泥の差がある、という状態だったようです。
どうしても出て欲しい、という製作陣の要望で、重要な役回り、しかもシリーズのパターンを作った形になっています。
全11作あるシリーズで、次回からはこの中村錦之助のポジションを、高倉健がやっている、という感じ。この時、健さん33歳。マジかよ。
この作品に出てくる、軽佻浮薄だが気のいいキャラ、「赤電車の鉄(長門裕之)」が素晴らしい。
この赤電車の鉄が、金を作るために組の袢纏を質草に持っていくんですが、この主人とのやりとりがとても軽妙で2分半くらいあるんですが、この相手の人って誰なんだ、ただものではないぞ…と思ったらこの人は南都雄二。
「蝶々・雄二」で有名な人です。
どうりで普通の役者の間ではないと思った。というかその、稀代の芸人・南都雄二とまったく「間」の勝負で負けていない長門裕之ってほんとにすごいんですねえ。
それにしても「赤電車」なんていうあだ名、なんなんでしょうね。セリフにも「今夜はゆっくり、赤電車まで飲むとして…」というのが出てきました。
実は赤電車(赤電ともいう)というのは、「その日の最終電車」のことなんだそうです。路面電車で、終電では行き先標識を赤電球で照らして運行していたところから取られたあだ名。いつまでも残ってる、とか最後までいる、とかそういう意味なんでしょうかね。
名前も「鉄」だし、電車づくしのシャレ、だったんですね。
ちなみに「青電車」というのもあって、こちらは「終電車の直前」の電車のことです。青が来たら次は赤(最終)ってことだった。
1952年(昭和27年)の春日八郎のデビュー曲「赤いランプの終列車」は、まさにそのままのタイトル。常識だったってことですね(1:00あたり)。
白い夜霧の あかりに濡れて
別れせつない プラットホーム
ベルが鳴る ベルが鳴る
さらばと告げて 手を振る君は
赤いランプの終列車
この曲、ストリングスの「機関車の音」を模した演奏で始まります。
それにしても現在の曲に比べて、イントロが長い!!
こういうのも、時代の流れを感じるところです。
別れ切ない「赤電車」、名残は都バスに受け継がれ
http://www.nhk.or.jp/po/sorenani/905.html
いつも遅くに帰る人や、飲食店で遅くまでいる客をたとえて「赤電車」と呼ぶこともあったとか。
やっぱり、そういうことだったのか…。
「居残り佐平次」みたいなあだ名だったんですね。
ちなみに「日本侠客伝」は、長門裕之の弟・津川雅彦も出てるんですが(両人とも監督マキノ雅弘の甥)の役名は「ポンポンの繁」。なんだポンポンて…。
侠気のために義理のために、自分の幸せ、家族の未来、果ては命まで捨てて戦いに飛び込んでいく男が主役のこのシリーズ。
今回は、そのエッセンスはすべて清治(せいじ。中村錦之助)が請け負っていると言ってもいいでしょう。
それを、受け継いで男の中の男イメージを定着させた高倉健。
そう言えば「昭和残侠伝」の一作目の役名も清次(寺島清次。てらしませいじ)だったなぁ。
その清治(中村錦之助)が殴り込みで殺されてしまい、しかも放火までされて、悪辣非道な敵勢力への怒りをそれでも抑える長吉(ちょうきち。高倉健)。
さらに仲間が次々に殺され、ついに単身殴り込むんですが、残り時間が2分半しかない!!
だけど相手は、ラスボス沖山仁三郎(安部徹)だけ。
木材を裁断する機械が動く中(こういう演出はかなり斬新な試みだったはず)、ついに復讐を果たします。間に合った。
最後の「握った刀が離れない」という演出も、祭りの夜に捕縛に走る警察隊、その様子を不安げに見送るお咲(三田佳子)、そして後日「深川事件」の犯人として顔写真が新聞に載る長吉(高倉健)。
ものすごい余韻を残して、物語は終わります。
この時、高倉健33歳。マジかよ。
ーシリーズ11作ー
第1作『日本侠客伝』1964年8月13日公開
第2作『日本侠客伝 浪花篇』1965年1月30日公開
第3作『日本侠客伝 関東篇』1965年8月12日公開
第4作『日本侠客伝 血斗神田祭り』1966年2月3日公開
第5作『日本侠客伝 雷門の決斗』1966年9月17日公開
第6作『日本侠客伝 白刃の盃』1967年1月28日公開
第7作『日本侠客伝 斬り込み』1967年9月15日公開
第8作『日本侠客伝 絶縁状』1968年2月22日公開
第9作『日本侠客伝 花と龍』1969年5月31日公開
第10作『日本侠客伝 昇り龍』1970年12月3日公開
第11作『日本侠客伝 刃』1971年4月28日公開
…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。