シリーズ3作目。
舞台は千葉県の銚子。
このシリーズには「渡世の仁義」がベースとしてかたくなに設定されていますので、主人公は「渡世人」なんです。「渡世人」というのはひらたく言えばヤクザですけど、やっぱり令和の感覚とは違いますよね、腕っぷし・男意気・乱暴と、信頼がもうちょっと粗雑に混ざってる感じ。おそらく、美化するような感じでもなかったとは推察しますが、たとえば関東大震災後とか戦後とか、治安維持に警察がそういう団体と協力していたことは周知の事実です。
一般人も、組織犯罪としての認識はちゃんとありつつ…だけど頼らないといけないもっと大きな問題があった、という感じだったのでしょう。昔の人が言えば「おおらかな時代だった」で済んでしまいますが、芸能だって、そうですよね。
昭和残侠伝シリーズにおける、正義のベースはいつだって「働く男たち」で、労働を守る立場が土台になっています。生活と伝統を守る側が、新興勢力の悪どく強引なやり方と、激しくバッティングする。まだ明治の親分が生きてたり、「先代」として訓戒を残してたりするし。
第3作は、一匹狼。
昭和8年。
主人公は武井繁次郎(高倉健)。
漁師を束ねる網元があって、浜徳(はまとく)。ここはカタギです。
この会社のバックについているのが、潮政(しおまさ)一家。
ここに、刑務所から出てきた武井繁次郎はやっかいになっています。
潮政一家とコトを構えているのが、川銀(かわぎん)一家。
近くに千波というお店があって、そこにいる美枝(藤純子)という女性のことが好きになってしまう武井繁次郎。だけど3年ぶりに戻ってきた美枝のお兄さんは、川銀一家に客分として滞在していて、しかも繁次郎とは仇同士。
このお兄さん(桂木竜三)は、浅草・弁天一家の客分としての恩義を果たすべく、4年前に繁次郎が幹部をしていた関東島津組の親分を殺して自首しました。それが昭和4年。服役していたんですね。え、それで「3年ぶり」ってどういうことなの…?
殺人罪が確定して仮出所って3年でできるの…?早くない??
繁次郎(高倉健)もその仇討ちで、弁天一家の組長を殺害して服役していました。こっちも出所、早くない??
繁次郎にとって桂木竜三(池部良)はいつか、復讐しないといけない相手。復讐はしないといけないし、だけど好きな女の兄貴だし…。
復讐は義理。女は情。ポイントはここですね。
「兄を許してやってください」なんて、女に言われちゃうんですけど。
抗争の結果、潮政一家の親分が川銀一家に殺されてしまいます。
これは網元を懐柔して、魚の市場を独占してしまおうとする川銀一家の策略。
あまりに汚い川銀一家のやり口に怒って、殴り込んだ男も返り討ちに。
とにかく殺された人は戸板に乗せられてリヤカーで運ばれてきます。現場から病院、ではなく、現場から事務所へ。当然、その間に症状が悪くなったり絶命したりもするんでしょうけれど、救急車を呼んで当たり前に救急病院へ…という考えは、もう少し後のことなんですね。
救急車は、1931年(昭和6年)に大阪で配備され、その2年後に横浜で。その次の年に名古屋に。東京で配備されるのは昭和11年(1936年)、だそうです。救急車の中で行われる応急措置も現代とは比べ物にならないでしょうし、「昭和残侠伝 一匹狼」の舞台は昭和8年。日本刀で袈裟懸けに斬られたりして内臓にまで傷が達したりしたらまず助からない…喧嘩ってそういうものよ、っていう時代。
やり過ぎた川銀一家。
武井繁次郎の怒りは静かに爆発。
死ぬつもりで、浜辺を歩き、殴り込みにたった一人で向かいます。
夜の浜。
歩きながら、テーマソングが流れます。
親にもらった大事な肌を
墨で汚して白刃の下で
つもり重ねた不孝の数を
なんと詫びようかお袋に
背で泣いてる唐獅子牡丹
ここで、川銀一家に世話になっているはずの桂木竜三(池辺良)が一緒に行くと言い出します。
まずは昔の因縁を晴らす勝負をするはずの二人なので、殴り込みで死んでもらっては困る…という建前なんですが、桂木竜三も一緒に行くことに。
白を黒だと言わせることも
しょせん畳じゃ死ねないことも
百も承知のやくざな稼業
なんで今さら悔いはない
ろくでなしよと夜風が笑う
仁侠道に照らして、武井繁次郎に義があると判断して、仇であるはずなのに加勢するんですね。
桂木「カワギン、たった今からてめえとは縁切りだ」
川崎銀五郎(河津清三郎)「おう、桂木、てめえ渡世の仁義忘れたか!?」
桂木「小汚ねえゲジゲジ野郎にはほとほと愛想が尽きた!」
ここで、桂木竜三(池辺良)は死んでしまいます。
どこかで、命の捨て場を探していたような桂木竜三。
義のある方に加勢して死ぬことを、渡世人として望んでいたんですね。
警察に自首しようとするとき、美枝(藤純子)に「もう一度ここへ帰ってきてください」と言われるんですが、それには返事をしない繁次郎。
流れ流れの旅寝の空で
義理に絡んだ白刃の出入り
馬鹿なやつだと笑ってみても
胸に刻んだ面影を
忘れられようか唐獅子牡丹
この歌詞に出てくる「旅寝(たびね)」という聴き慣れない言葉。
調べると、「常の住まいを離れてよそで寝ること。」と出てきます。
古い言い回しだそうです。
兄を亡くし、愛する男もいなくなってしまう悲哀。
そしてこの怒りの殴り込み(大量殺人)は、4年の服役を経て出所して、まだ半月くらいしか経ってませんからね…次は何年の懲役になるんでしょう…。事情はあれど、死刑かもしれない。こういう「お互いに愛情がありながらもう二度と会えないかもしれない二人の男女」っていうところに、観ているものはなんとも悲しくも、はかない情愛を感じ取っていたんでしょうね。
ーシリーズ9作ー
第1作『昭和残侠伝』1965年10月1日公開
第2作『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』1966年1月13日公開
第3作『昭和残侠伝 一匹狼』1966年7月9日公開
第4作『昭和残侠伝 血染めの唐獅子』1967年7月8日公開
第5作『昭和残侠伝 唐獅子仁義』1969年3月6日公開
第6作『昭和残侠伝 人斬り唐獅子』1969年11月28日公開
第7作『昭和残侠伝 死んで貰います』1970年9月22日公開
第8作『昭和残侠伝 吼えろ唐獅子』1971年10月27日公開
第9作『昭和残侠伝 破れ傘』1972年12月30日公開
…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。
軒下三寸借り受けまして、Amazonにてごめんこうむりやす。