なんとなく2文字から浮かぶこと

人生

投稿日:2018年1月5日 更新日:

本能寺で信長は燃え盛る紅蓮の炎の中、幸若(「敦盛」)を舞った。人間50年。これは「寿命が」という意味ではなく「人間の世は…」というていどの意味らしい。でもだいたい同じか。人間はだいたい50年で死ぬ。それが常識的な時間感覚だったんだろう。犬とか猫だと10年とか15年とか。でも野良猫は5年くらいで死ぬらしい。その飼い猫と野良猫の差はどこからくるのか。生活の激しさか。環境の過酷さか。人間の寿命が80歳になった現在と、「人間50年」の時代と。その差はどこからくるのか。生活の激しさか。環境の過酷さか。人間50年、犬猫15年、昆虫10日間。よく長寿の犬猫を指して「15歳だからもう(人間で言うと)80歳くらい」というような言い方をするが、8日めのモンシロチョウに対して「人間で言うともう80歳くらい」とは言わない。なぜか、モンシロチョウには人間換算をしない。昆虫は、人間の人生についての尺度が通用しないと感じているからだ。「人生」は人間にしか適用できないのだから、昆虫に「人間で言うと」はしっくりこない。ならば、犬や猫にだってしっくり来るはずはない。ゆうに400年は生きると言われるオンデンザメなら、例えば「現在、推定300歳くらいなので、人間で言えば60歳くらい、ですかね…?」と計算することは、なんだか肩透かしを食らった気分にさせる。もちろんオンデンザメは人間の何倍もの寿命を意識して生きているわけではないし、それとまったく同じで犬も猫も馬も蝶も、人間の何分の1かの寿命で慎ましやかに生きている、という意識などない。あるわけがない。その種にとっての一生に、長いも短いもない。そしてその個体にとっての一生には、長いも短いもない。ライオンに食われたシマウマの一生と、食われなかったシマウマの一生に、長いも短いもない。ただその生のみしか生きられないシマウマにとって、突然の終わりが来て死に至っても、そこで死ななかった生との比較など、しようがない。死は、生の対局のように考えがちだけれど、たとえ人間であっても死んでから、生について考えることはできない。生は死にぴったりと張り付いているものだから、死は生きることにおける最後の静かなイベントの名前、というだけではないか。どんな人生だったか、そもそも人生という、目にも見えない手にもつかめないのに妙に温度だけは感じる、この虚構の名前はいったいなんなのだ。まるで年表の上を歩いているかのような。まるでカレンダーを刻んで並べて眺めながら歩いているかのような。それなりの先が見え、振り返れば幼少期が霞(かす)んで見える、ただそのイメージは自分の頭の中にしかない。無理に絵や文章に描き出すことはできるけれど、それだって本人の頭にある人生の、すべてではない。マイケル・ジャクソンの人生はなんとなく知っているけれど、本人による人生の全体像は、誰にも知ることが出来ない。実は人生とは、本人の脳内でのみ作られる、記憶の断片の山なのではないか。膨大な断片はついに統合されることはなく、ただ蓄積されていく。そしてその断片の山をすべて縦横に並べても、全体像にはならない。部分の総和は、全体にはならないのだ。自分ですら、その膨大な断片をまとめることなどできない。そんなものは無視して良い。人生の正体とは、いま、今、目の前の、この一瞬この一瞬。過ぎ去っては未だ来たらない、目の前にしかない一瞬を、正確に感じることなのではないか。考えすぎると過去のことになり、悩みすぎると未来に偏る、人生という名のスコープは、本当は「今」だけに焦点を当てるべきなのだ。後先考えない、ということではなく、人生、などという実体のない、ヌルヌルの記録表のような、架空のものに振り回されて、「今」を見失うのは本当の意味でもったいない。人生がなんらかの理由で伸びれば伸びるほど、それは忘れ去られていく感覚なのかも知れない。寿命の短い生き物から、人間はそれを感じ取らねばならない。なんとなく2文字から浮かぶこと、はとりあえずこれで終わりです。ありがとうございました。

 

 

 







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