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胡椒 暴虐の世界史

投稿日:2022年6月11日 更新日:

胡椒 暴虐の世界史

原題は
『PEPPER A History of World’s Most Influential Spice』。

ドードー、かんたんに絶滅。

ヨーロッパ諸国によるコショウ争奪戦の中、孤島で発見されたドードーという鳥は、天敵のいない環境で生きてきたがゆえに警戒心が弱くさらに飛べないので、いとも簡単に捕獲され食べられてしまいました。
オランダ人やイギリス人が船でやってきた際に一緒に連れられていた犬、家畜として飼われた豚、穀物にくっついてきていたネズミなどもドードーを知り、その卵を遠慮なく食べ尽くしました。

インド洋の島々やアジアなどは「奪り尽くし・殺し尽くし・利用し尽くし」で構わないと思い込んでいるヨーロッパの人々にとって、おそらく大して美味くもなかったはずのドードーを「養殖しよう」とか「肥育しよう」などという考えは浮かぶはずのないことでした。いなくなれば他のものを獲って食えばいい。「無尽蔵に動物がいる」という感覚は、そう思わせるくらいに飢えた船乗りたちの頭を、席巻していたようです。

ポルトガル語で「のろま」を指すというドードー。

日本語で「アホウドリ」と呼ばれる鳥も、警戒心が薄く人間にすぐ捕まってしまうところから名付けられました。バカ鳥、という言い方もある。最近はヒドすぎるので違う言い方もします(オキノタユウ、など)。だいたい、すぐ捕まえられることと「アホウ」「のろま」は関係ないし。

アホウドリも乱獲で異常に数を減らしてしまいましたが、1936年には禁猟区が設置され、以後断続的に監視や保護活動が続けられています。これはもう「時代がよかった」としか言えないところですよね。

時代が、1930年代にまでなっていたからやっと「地域の自然や動物を守ろう」という機運が現実化するという方向性が生まれたわけで、15〜17世紀の、しかもアジア人や自然なんぞは「奪り尽くし・殺し尽くし・利用し尽くし」で構わないと思い込んでいるヨーロッパの人々に狙われたドードーに、「保護」などという観念が適応されることは、1秒たりともなかったことでしょう。

死ぬ気だからこそめちゃくちゃに

オランダやイギリスの東インド会社が運営する船に乗り込んだ、むくつけき男たち。彼らは命懸けでインド洋を超えて航海を続けてきており、基本的にずっと、穏やかな心情であろうはずがない状態です。

船がいつ転覆するかわからない
いつ病気にかかるかわからない
いつ海賊に襲われるかもしれない
給料が支払われるかどうかわからない
無事に帰れるかどうかわからない

というような、わからない尽くしの過酷な環境での労働がずーっと続いており、しかも給料じたいはすごく低かったそうです。それは「お前らは…現地で…自力で…上手くやれ…」を含んでいるということなんですね。

ということは、不正会計や横領なんかは親会社も嫌がるでしょうけれど向こうの、アジアの現地人なら騙して富を得ること、現地で多少無理して簒奪したってヨーロッパ人はなんとも思っていなかったということです。

褒美として「略奪を許可する」というのは昔の軍隊にはよくある不文律で(今もロシア軍はやってる)、それに近いからこそわざと給料は下げてある、つまり船員たちのモチベーションに「現地からぶんどってくる」を設定してるっていうことですね。それでずいぶん富んだ人らも大勢いる様子。

 

「香辛料」を超えた存在

コショウは、当時はインド〜東南アジアなどの熱帯でしか繁殖していなかったのです。
だからその地域を狙って、軍事力を背景にした各国の争奪戦になる。

ポルトガルは、ブラジルにコショウの移植を試みますが失敗。
のちにそれに成功するのは、移民した日本人なのだそうです。

アジアでは勝手に生えていたコショウですが、食べ物に用いる味付けとしてだけでなく、抗菌・防腐効果もあるので健康食品・医療品としてかなりの価値をヨーロッパ人は見出し、アジア地域への夢・憧憬もあって、とんでもない量が流通しました。そのため、測量できないほどの多くの血が流されました。

とにかくヨーロッパにさえ運べば売れるんですから争奪戦になるのは当然です。

胡椒貿易がもっとも盛んだった時期、このスパイスは金や銀よりも値打ちがあった。(中略)アジアへの航海を生き延びた船員たちは、労賃として数キンタールもの胡椒やスパイスを受け取ることがあった。キンタールとは重さの単位で、一キンタールはおよそ五六キロであった。船員たちは支払われたスパイスでその後一生食べていくことができた。胡椒は正規の通貨の一つと見なされ、納税や関税の支払いに使われただけでなく、持参金としてさえも通用した。一五二六年、ポルトガルのイサベル王女がスペインのカルロス一世(神聖ローマ皇帝カール五世)と結婚したとき、イサベルの兄ジョアン三世は持参金の一部を胡椒で支払った。人の財産はその人の家にどれほどの胡椒があるかで表した。(p.42)

 

いまだに東南アジアでオランダ人が嫌われているのはこの当時の記憶があるからでしょう。
ダッチワイフ、ダッチカウントなど、あまり良い言葉が残っていない印象、確かにありますね。

ダッチワイフはそもそもインドネシアに赴任していたオランダ人が抱いていた「籐製品の枕」を指すようです。現在の、オナニー補助具としての名称としての嚆矢は不明。ダッチカウントは「割り勘」のことです。

オランダ人たちの苛烈な処断は、現地人には悪魔にしか映らなかったでしょう。
コショウの代金を彼らは、アヘンで支払ったりもしました。

コショウの需要がヨーロッパにおいて、さすがに落ち着いてくる時期というのが来ます。
以前のような高値では、持ち帰っても売れなくなってきた。
争奪戦の激しさゆえ、現地も疲弊している。

そんな中、オランダとイギリスはアヘンに目をつけ、インドから東南アジアへ、アヘンを輸出し始めます。もちろん、彼らはアヘンを吸うとどうなるか知っていました。なので自分達はやりません。自分の奴隷にも吸わせません。

イギリスは最初、中国に対してお茶の代金は金や銀で支払っていましたが、やがてアヘンで支払うようになります。それが「アヘン戦争(1840年)」につながっていくんですね。

イギリス人の「ティー文化」は、中国から輸入したお茶に始まります。アヘンと交換して得たお茶で「ティー文化」を築くイギリス人。平然と「これが英国」と嘯くイギリス人。

そしてアヘン戦争でぶん捕った香港は1997年まで、割譲され続けることになりました。
イギリス人はオランダとのせめぎ合いの中でオランダと同じような行い続け、アメリカがそれに続いてさらに残虐な植民地政策を続けます。フランスも。

「コショウ貿易」とは言うものの、実態は不平等貿易・略奪・侵略です。
断ると船から大砲撃ってくるような連中とのやりとりを「貿易」とは呼ばないでしょう。

ヨーロッパ人がキリスト教的精神に基づいて「未開の土着人を文明人が開化させるのは絶対正義であり使命」と信じて突き進んだ結果、莫大な富を生む胡椒はすり減り現地人は奴隷化され、動物たちは絶滅しました。

ドードーのように名前が残っているのはまだマシかも知れません。名も知られず数も数えられず、遊び半分で殺戮されて絶滅した動物も、おそらくたくさんいることでしょう。

 

この構図、西欧が「発見した価値観」で世界を蹂躙していく感じは、現代も形を変えて、続いているような気がしてなりません。

ありもしない「SDGs」という守るべき価値観を発明し、それを死守することが地球と人類を守ることだ、と言い出す。自分達が守れない部分は平然とルールを変えるヨーロッパの人たち。

昨今は「フェアトレード」という語句も盛んに使われてますが、「いったい誰にとってのフェアなのか」は、注視する必要があると思います。

 

ちなみにベルギーはチョコレートで有名ですが、ベルギーで、原料であるカカオが育つわけではありません。有名なアフリカのガーナはイギリスの植民地でしたが、ベルギーはガーナ(イギリス)からカカオを輸入し、産業として確立させることに成功します。

我々がベルギーチョコレートは有名で美味しいぃ〜高級ぅ〜などと喜んで食べていられるは、虐待されて奴隷として強制労働させられてきた、アフリカの人々のおかげなのです。

なかなかすごいなと思うのは「ベルギーチョコレート」で検索して出てくるページには、それに触れたものがありません。いくつか見ましたが、そのどれにも当然のように「ベルギーにはチョコの歴史があります。その特徴は」などと、しゃあしゃあと書いてあります。アフリカのアの字もない。後ろめたいからです。

まだ「ティー文化」を「アヘン戦争」の文脈で語る余地のあるイギリスの方が、マシかも知れない。

 

 

ああ、ただただベルギーチョコに群がっている人たちはもしかして、ベルギーで本当に「チョコレートの木」がなっているとか思ってるのかも知れませんね。

 

本日は以上です。







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