鎌倉殿の13人

鎌倉殿の13人 第21回『仏の眼差(まなざ)し』

投稿日:2022年5月29日 更新日:

藤原泰衡は

義経の首を差し出した。

しかし、それは頼朝の罠。

義経という

武器を失った平泉は

もはや鎌倉の敵ではなかった。

 

ある種の虚無感にうなだれる北条ヨシトキ(小栗旬)。

軍功華々しきあの源義経(みなもとのよしつね・菅田将暉)がああいう形で殺されてしまう流れが存在するという虚しさと、恐れが混じりあったような空気が漂っています。

八田知家(はったともいえ・市原隼人)が急に連れてきた少年は、いったい誰なのか

鶴丸(つるまる・佐藤遙灯)。

その名前に、かつて失った我が子(千鶴丸)の影を見る八重さん(やえ・新垣結衣)。
それを見つめる幼き金剛(のちの北条泰時/ほうじょうやすとき・森優理斗)。

全国平定終了

源頼朝(みなもとのよりとも・大泉洋)による東北攻めは、「圧勝」で終わりました。
源義経の首を差し出した藤原泰衡(ふじわらのやすひら・山本浩司)の首を差し出した河田次郎(かわだじろう・小林博)の首を、名を呼ぶのも穢らわしいと刎ねさせる源頼朝。

「これから大事になるのは忠義の心だ」と正論っぽく源頼朝は言いましたが、もはやそこには忠義だったり筋だったりを尊重する武士の論理は存在せず、ブルドーザーのように東北を蹂躙できればそれで良いという非論理が存在したようにも見えます。

「自分の役に立つ人間は生かす」という論理があるならば少なくとも、河田次郎はもう少し役に立つでしょう(東北の後始末など)から生かしておくべきですし、そうしなかったのは「河田次郎なんかもうどっちでもいい」からでしょう。
東北の存在をいかに忌々しく思っていたのかが窺い知れるかのような、吐き捨てるような処断でしたね。

そして梶原景時(かじわらのかげとき・中村獅童)の達観。
彼は讒言して源義経を追い詰めたとされているものの、源頼朝に重用されているがゆえに側近として他を抑え込む形で君臨しています。

そして御家人たちの恨みが積み重なっている状態、ですね。

気持ちが、動いているということ

源頼朝が八重さんとの、伊豆の思い出を突然語りだしたシーン。
あれはいったいなんなんでしょう。

以前に手を出して、子供も殺され心に傷持つ女。父は殺した。
今の夫(北条ヨシトキ)。
現在の妻・北条政子(ほうじょうまさこ・小池栄子)もいる前でわざと、全員の気持ちが毛羽立つことをヌケヌケと彼が言い出したのは、なぜだったんでしょう。

戦勝気分で調子に乗ってた、という描写なのか。
人の気持ちの機微がわからなくなっている、という演出なのか。

「盛者必衰」は歴史の流れの常なので「調子に乗る」は、「これから落ちるよ」のフラグでもあります。
まだもう少し時間はあるようですが、「抗ってもけっきょくは言いなり」と北条ヨシトキが源頼朝の横暴に嘆息するようになっているということは、もう挙兵したあの頃の精神状態とは違ってきているということでしょうし、源頼朝の命運は山のてっぺんをすでに超えている、ということなのでしょう。

誰もそれには気づけません。

次は法皇。

源頼朝は武力で全国を平定したので、次は権力そのもの、「治天の君」たる後白河法皇(ごしらかわほうおう・西田敏行)をどうやって攻略するか…というところが重要になってきます。

なぜか日本では武力で朝廷を討ち滅ぼしてしまうという選択は絶対にあり得ないので、どうやって「圧力をかけて言うことを聞かすか」っていうことなんですよね。

最大権力者である後白河法皇は、「まぁ聞いてやっても良い」んだけど、ああ、力が大きくなってきた源氏を抑え込む、強い奴は他にいないかなぁ〜っていう感じでもある。ずっとそれでやってきたんだけど、ついに駒がなくなったっていう段階ですね。でも、あの源頼朝の夢枕に立って他のはじゃあいったいなんだったんだ、っていう気もするけれど。

モメるきっかけ、また爆誕。

北条時政(ほうじょうときまさ・坂東彌十郎)とりく(牧の方・宮沢りえ)の間に、男子が生まれました。のちに北条政範(ほうじょうまさのり)となる人です。

この時点で北条時政は、北条家の家督はこの北条政範に…と考えていたフシがあります。
少なくともりくは、そう決めてかかっていた。
北条の家族たちが微妙な顔をしていたのはそういうところだったんですね。

次代当主となるはずだった北条宗時(ほうじょうむねとき・片岡愛之助)は石橋山合戦で命を落とし、小四郎(ヨシトキ)は江間の人になったので、筋としては間違ってはいないのでしょう。

牧の方のせいで(と言ってもいいでしょう)、巨大なトラブルがどんどん迫ってきています。
トラブルメーカーの大活躍で、若い女に振舞わされたジジイの命運やいかに…。

その上、大姫(おおひめ・南沙良)が元気になるおまじないを教えて差し上げます、と言い出してさらに微妙な空気に。

祝いの席で彼女が唱えた呪文は、いったいなんだったんですかね。はっきり言って怖い。

オン・タラク・ソワカ。

真言の一部、のようです。

「オン・バザラ・アラタンノウ・オンタラク・ソワカ」
虚空蔵菩薩の知恵にあやかる真言、とのことで「記憶力増進」のご利益があると言われています。

一般に、虚空蔵菩薩は「1月/2月生まれ/丑年・寅年生まれ」の守護仏として扱われます。
あの赤ちゃんが生まれたのが真冬…のようには見えないですよね。
生年である1189年は己酉(つちのととり)なので、これも違う…では大姫は、なぜあんな真言を唱えたのか。阿野全成(あのぜんじょう・新納慎也)は「如意宝寿ではないかな」と囁いてました。

自分の名前を「あおい」に変えたと言い出した大姫。
あの悲しき別れから、健気にも明るく振る舞っているように見えますが、心の傷は絶対に、まったく癒えていません。せめてかつての自分の名前を振り払うことで、悲しみから逃れようとしているのか…鎌倉で、腫れ物に触るように扱われている彼女の振る舞いが、どんどん奇異になっていく。

というかそもそも、「大姫」は名前ではありません。
「政子」も、彼女の本名だったとは言えないのだそうです。
女性の名前は当時、記録に残ることはとても少なく、本名は身内以外には隠されていることが普通でした。

「大姫」はいわば「一番最初に生まれた偉大な長女」みたいな意味で、男なら「太郎」に充当するのかも知れませんね。「政子」も「北条の、時政のところの子」っていう感じなのかも。

大姫は、政子の娘。
新しく生まれた北条政範は、政子の母違いの弟です。
ということは大姫にとって、北条政範は「叔父さん」ということになりますね。

彼女には入内計画(天皇に嫁ぐ)が持ち上がっており、自分の運命を翻弄する父・母に、なんらかの思いを持っているはずです。穿った見方をすれば、源義高(みなもとのよしたか・市川染五郎)を奪った父・母に復讐するためには、自分が不幸に死ぬしかない。思い通りになんかなってやるものか。

記憶。
思い出せ。
忘れるな。

そんな決意を内に秘めた真言だったとしたら、今回の大姫の呪文は、凄まじい決意を持ったものだったということが言えるでしょう。

 

そして八重さんの死。

幼い北条泰時を残して、川で命を落としてしまいました。
ここで彼女がいなくなるとは…孤児たちを育てていた彼女は、かの千鶴丸の面影を見出し、鶴丸を救うべく川に。

出自のわからない下賤の者であるみなしごを救うために、我が母が死んでしまった。
これで、北条泰時の「歪み」が形成されていくわけですね。

鶴丸なんぞは北条泰時と同世代だが、出自のよくわからない子。
八重さんの命と引き換えに、北条泰時に凄まじい心の傷を刻みつけた男。

もしかすると現世代の善児(ぜんじ・梶原善)のように、北条泰時の下で汚れ仕事をする「影」として、暗躍するのかも知れませんね。

 

今回の『鎌倉殿の13人紀行』は、ここでした。

願成就院







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