仁侠ものチャレンジ

昭和残侠伝 破れ傘

投稿日:2020年3月2日 更新日:

昭和残侠伝 破れ傘

「残侠伝」シリーズ最終作。

「待っていた健さん!」とパッケージに書いてあるくらい、もはや仁侠モノ=高倉健の人気は不動のものになっていたんですね。

破れ傘…この言葉には、どういう含意があるんでしょう。

主人公の背中に入った彫り物が「唐獅子牡丹」なので、サブタイトルにも「唐獅子」が割と入ってた本シリーズですが、今回は「破れ傘唐獅子」だとなんだか語呂が悪かったんでしょう。

この「昭和残侠伝」は、江戸から続く仁侠、侠客が持っていた「侠」いうもの、義理というもの、仁義というものが、時代を経て「昭和」になって、すっかり変わってしまった中で、まだ筋金が入った男というものがいますよ…ということを、明示するタイトルなんですよね。

昭和(にも)(っていた)(客の)(説)」っていう感じ。

 

花会(はなかい)と呼ばれる、博打の会が催され、そこでトラブルになった2つの組織が険悪な関係になりました。

一方の、福島・郡山の寺津組の寺津力松(てらづりきまつ・安藤昇)親分と兄弟分の、花田秀次郎(高倉健)は、3年ぶりに娑婆に出てきた男。恥をかかされた天神濱(てんじんはま)組への殴り込みに助っ人します。

エンコ生まれの浅草育ち
ヤクザ風情と言われていても
ドスが怖くて渡世はできぬ
ショバが命の男伊達
背で吠えてる唐獅子牡丹

その、殴り込みから4年後。
花田秀次郎は、親を探す旅で、信濃へやってきます。

ここで、行きがかりで、自分の名を騙る東京銀二郎(北島三郎)という男と出会います。
東京銀二郎は時雨(しぐれ)組の賭場で、イカサマが見つかった状況、でした。

その時に、なんと、自分でこう言うんです。

いいか、鼻の穴…じゃねえや耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!

自分で、北島三郎が、自分の鼻の穴をイジってるんです。
自虐ネタというか、この作品は1972年の公開ですが、この時点で、「北島三郎の鼻の穴」は、自分でイジればウケること間違いなしの、トレードマークとなっていた、ということですね。

時雨(しぐれ)組の親分、時雨弥三郎(しぐれやさぶろう。鶴田浩二)に、ドスで掌を突かれる秀次郎。

東京銀二郎のイカサマを、自分で落とし前をつけてくれと頼んだ以上、イカサマ師への懲罰としての「手を使えなくさせられる」は、仕方なのない負傷でした。東京銀二郎(北島三郎)がイカサマをするに至ったのは、妹を女郎仕事から救うため、でした。

なんと時雨親分が、身受けしてくれる事態に。
女郎というのはまず、借金をさせられて、多くはそのお金は親に渡り、その借金を返す形で客を取らされて、働いています。
なのでその仕事を辞めたければ、お金を返すしかない。どこかの誰かに少し借りてなんとかなる額ではないですから、「身受け」というのはかなりのお金持ちにしかできないことだったのでしょう。そして女郎たちは、いつか抜け出すことを夢見ていたのでしょう。

これは、時雨弥三郎親分が、花田秀次郎の、侠(おとこ)としての意地の立て方に感服し、助けた理由であった東京銀二郎の目的を果たすことで、花田秀次郎が負った傷に、甲斐を与えたということになるんですね。
お金を出した時雨親分が、花田秀次郎の「男気を買った」という形になります。

郡山に戻ってきたら、また違う感じでモメており、あの兄弟分がいる寺津組は、弱小組織だったのに、巨大勢力に成長してるんです。
会津若松の鬼首(おにこうべ)組というすごい名前の組と組んで、なんだか良くない感じになっている。

一方、天神濱組から足を洗って、杜氏になっていた風間重吉(池部良)。

実子に跡目を譲って、カタギになっていたんですね。
「会津の若虎」は、殴られても我慢して、元いた組を守ろうとしていました。

そして風間は、秀次郎が8年間探し続けていたお栄(星由里子)の旦那だったのです。
昔、恋人だったお栄は、長年の寄せ場暮らしと旅の間に、違う人の女房になっていたのですね。

それを知り、あっさり出ていく秀次郎。
悲恋はこのシリーズに、必ず含まれる要素なんですが、彼女も秀次郎を、探していたそうです。
噂で「秀次郎は死んだ」と聞き、縁あって風間重吉(池部良)の妻に。

もうそうなると、秀次郎は旅に出るしかない。

柿の実のなる秋、天神濱組と寺津&鬼首組の抗争は、待った無しの状況に…。
花田秀次郎は、兄弟分の寺津組を助けるために、風間重吉と一騎討ちをすることになります。
複雑な心境。それをお互いに察しながら、河原で対決する二人。
決闘を止めようと飛び出したお栄(星由里子)が、巻き添えで死んでしまいます。
それで決闘はやめることに。

タイミングよく、時雨弥三郎親分(鶴田浩二)が仲裁を名乗り出てくれたんですが、寺津はそれを蹴ろうとします。花田秀次郎は受けるべきだと言いますが、寺津は「4年前に、花会で恥をかかされた」ことを、いつまでも恨みに思ってるんですね。

渡世の義理で、探し続けていた恋人を殺してしまうことにまでなった花田秀次郎からすると「何をいつまでも、小さな沽券にこだわりやがって」という気持ちもあったでしょう。もう、兄弟盃を返す、とまで言い出します。すると寺津も、折れてくれました。でもそうなると、郡山を掌握しようとしていた鬼首組が怒るわけです。手打ちになんかさせねえ!

鬼首鉄五郎(おにこうべてつごろう。山本麟一)は、仲裁人の時雨親分を暗殺しようと計画。
なんとその刺客が、東京銀次郎(北島三郎)だったのです。

東京銀次郎は刺客として現れ、返り討ちにあいますが、武器は持っていませんでした。
渡世の義理を返すために刺客にはならないといけないし、その上で、妹の件で大きな世話になった時雨親分に傷をつけないようにするには、こうするしかなかったんです。東京銀次郎は死にました。

ここで花田秀次郎は「この落とし前はあっしにつけさせてください」と頼みます。

さて、どうするんでしょう。

雪降る中、寺津(安藤昇)と話し合う花田秀次郎(高倉健)。

ちょっと気になるんですが、このシーン、話し合う二人に「鬼首の親分がうちで待ってますが」とひょっとこの福(山城新伍)が呼びに来るんですが…。

この一瞬だけ、照明がどうしてもおかしいんです。フィルムの劣化…とかじゃないと思うんですよね、なんでこんなことになってしまってるのか…。驚くほど「明るく」なってしまってます。気になる…。

結局、鬼首に殺されてしまう寺津力松。嫁がせていた妹(鮎川いずみ)まで殺してしまう鬼首。まさに鬼首。時雨親分まで殺されてしまっては、花田秀次郎の怒りは爆発。

もういきなりテーマソングに直結します。

流れ流れの旅寝の空で
義理にからんだ白刃の出入り
馬鹿なやつだと笑ってみても
胸に刻んだ面影が
忘れられようか唐獅子牡丹

雪の降り、景色が白く染まる中、傘をさして進みます。
風間重吉が、「ご一緒いたします」と合流。

白を黒だと言わせることも
しょせん畳じゃ死ねないことも
百も承知のヤクザな渡世
なんで今さら悔いはない
ろくでなしよと夜風が笑う

途中で投げ捨てた傘、破れてなかったな…。

鬼首組へ切り込む二人。

元・会津の若虎、風間重吉は珍しく長ドスを持ってますが、不運にも健闘虚しく、予定通り致命傷を負います。

花田秀次郎も、後ろから刺されかなりの傷を負い、引きちぎられた着物が落ちて「唐獅子牡丹」がお目見え。

かなりの失血で、また目と眉の間が青く。
青白く、返り血を帯びた二人。

なんと今回は、風間重吉、「死んだ」とはっきりはしないまま、「終」となりました。

もしかしたらこの後、ガクッと倒れて死ぬシーン、があったのかもしれませんが、その後の二人がどうなったのか、はわからないままです。

…そう思うと、このシリーズに幾度となく出てきた、「警察に連行されるシーン」っていうのは、なかなかショッキングな場面、と言えますよね。わざわざそこを映し出さなくても、今回のように「復讐は終わった」で、何かのアップにしておけばいいんだし。

「正義の殴り込みのあと、警察が来て逮捕される」っていうシーンは、「いくら怒っててもやってはいかんことはやってはいかん」というメッセージだったのかも。いや、「仁義を通しても逮捕はされるから」っていう教訓だったのかも。いや「義理があったって危ないヤクザは捕まえるよ」っていうスローガンだったのかも。

どれも違う気がしますが、このシリーズを通して貫かれていたのは、「義理を守って、仁義を通して生きていくのは、やりにくい時代になっだぜ」ということですよね。

常に古い、義理堅い勢力と、新しい、無茶をしつつ広がっていく勢力がぶつかって、モメる。血が流れるのはヤクザ渡世だからですけれど、他の業界だって昭和初期、いろんな軋轢があって発展してきたのでしょう。

暴力という、極端な解決方法で物語は進んで行きますが、「仁義が通る感じではなくなってきた」という昭和初期、そして終戦直後(第一作の設定は昭和初期でした)からの動乱の時代が、なんとなく「仁義なき戦い」のベースになっていくんですよね。

もう、着流しで、ドスで斬り合う時代は、終わろうとしています。

…というわけで「昭和残侠伝」は終わりです。

なんと、「日本侠客伝」というシリーズがありまして、それはこの昭和残侠伝シリーズ」の前にはじまってたものなんです。ということは「昭和」は「日本」の後追い企画だったのか…。

よし、次は「日本侠客伝」シリーズだ!!!

 

ーシリーズ9作ー

第1作『昭和残侠伝』1965年10月1日公開
第2作『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』1966年1月13日公開
第3作『昭和残侠伝 一匹狼』1966年7月9日公開
第4作『昭和残侠伝 血染めの唐獅子』1967年7月8日公開
第5作『昭和残侠伝 唐獅子仁義』1969年3月6日公開
第6作『昭和残侠伝 人斬り唐獅子』1969年11月28日公開
第7作『昭和残侠伝 死んで貰います』1970年9月22日公開
第8作『昭和残侠伝 吼えろ唐獅子』1971年10月27日公開
第9作『昭和残侠伝 破れ傘』1972年12月30日公開

 

…2020年は、「仁侠ものチャレンジ」に取り組むのでござんす。
Amazonにて万事万端よろしくお頼もうします。







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執筆者:


  1. 山田重隆 より:

    私はアマゾン・ビデオプライムで昭和残侠伝破れ傘を観ました。関心があったのは、花田秀次郎が来ていた衣装です。勿論和服なんですが筒袖のような感じで、その下に多分、腹掛けを付けているのではないかと思いましたTシャツのように見えますがきっと腹掛けだと思います。
    私は居合をやっていますが健さんは鍔の付いた日本刀を持っていますが、白鞘を使っている人もいました。白鞘は刀の休め鞘で実戦では役に立たないと思います。

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設定は毎度違いますが毎度主人公と一緒に殴り込みをし、毎度死にます。

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