鎌倉殿の13人 見たもの、思うこと。

謎と敬虔のゴールデン・ホール。特別展「中尊寺金色堂」

投稿日:2024年2月25日 更新日:

天治元(1124)年から900年。

1中尊寺建立供養願文 1巻 藤原輔方筆
2中尊寺建立供養願文 1巻北畠顕家筆
3 阿弥陀如来坐像
4 観音菩薩立像
5 勢至菩薩立像
6 地蔵菩薩立像
7地蔵菩薩立像
8 地蔵菩薩立像
9 地蔵菩薩立像
10 地蔵菩薩立像
11 地蔵菩薩立像
12 持国天立像
13 増長天立像
14 阿弥陀如来坐像台座反花残欠
15 阿弥陀如来坐像台座蛤座残欠
16 阿弥陀如来坐像台座敷茄子残欠
17 菩薩立像台座蓮台残欠
18 菩薩立像台座反花残欠
19 阿弥陀如来坐像光背残欠
20 地蔵菩薩立像光背残欠 21 地蔵菩薩立像光背残欠
22 天王立像光背残欠
23 金箔押木棺
24 金塊(金箔押木棺副葬品のうち)
25 刀装具類残欠(金箔押木棺副葬品のうち)
25-1 金・銀七ツ金
25-2 銀鍍金革先金1対
25-3 銀鍍金目貫座金
25-4 螺鈿目貫座金
25-5 鍍金手抜緒鐶
26 念珠類残欠(金箔押木棺副葬品のうち)
27 大刀(金箔押木棺副葬品のうち)
28 金銀鍍宝相華唐草文八双金具残欠
29 金銅藁座金具残欠
30 珞断片
31 天蓋
32 金銅幡頭
33 金銅迦陵頻伽文華鬘
34 金銅迦陵頻伽文華鬘
35 礼盤
36 螺鈿平塵案
37 磬架・金銅孔雀文磬
38 金銅孔雀文磬
39 迦陵頻伽文露盤羽目板
40 孔雀文露盤羽目板
41 金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第三幀
42 金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第七幀
43 金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第八幀
44 金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第十幀
45 維摩詰経 巻下(紺紙金銀字一切経のうち)
47 入楞伽経 巻第二(紺紙金銀字一切経のうち)
48 仏説雑蔵経(紺紙金銀字一切経のうち) 1巻
49 漆塗螺鈿経箱 経題「大般若経三百内八帙」
50 漆塗螺鈿経箱 経題「説一切有部毘奈耶雑事一帙」

51金色堂模型(縮尺5分の1)

以上のラインナップ。
これだけの宝物が来る展示は初だ。

金色堂の中央壇上に安置されている仏像、11体は国宝である。
「それを見たいなら中尊寺に行けばいいではないか?」という思いも当然あるわけだが(そう思ったから2023年には見に行った)、とにかくそれが東京へ運ばれてくる。
いったいどうやって運んだんだろう。
「ちょっとそっち持って」「違うそんなとこ持ったら上当たるやろがい」「ちょっと一回待って一回待って一回降ろして」とかそういうレベルではないことはわかるが、中央の11体が東京へ行く、ということはその場所、平泉の金色堂の中央がすっぽり空く、ということだ。

中尊寺では前代未聞の「仏たちの大移動」に合わせて、「右側の11体を中央に移動させて展示する」という前代未聞の試みで、東京の展覧会が終わるのを待つ、ということにするらしい。

8KCGで金色堂が再現される、というのが今回の展覧会最大の見ものの一つである。

中尊寺金色堂 デジタルで解き明かす900年の謎
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024021216537?t=7

金色(きんいろ)のお堂だから金色(こんじき)堂。
「キンイロ」というとそのカラーだけを指すようにも感じるが、「コンジキ」と読むと、仏教的世界観から見た当時の浄土観、現世における来世の具象という、おびただしい財力をバックボーンにした祈りの強引とも言えるほどのエネルギーを感じさせる。

中尊寺金色堂には、奥州藤原氏のドン、藤原清衡(ふじわらのきよひら)、藤原基衡(ふじわらのもとひら)、藤原秀衡(ふじわらのひでひら)の三代が安置されている。

それプラス、四代目の藤原泰衡(ふじわらのやすひら)の首もあるそうだ。

四代目・藤原泰衡は、四代目になった途端に滅亡へのレールをしっかり引いてしまったラストボスである。その滅亡への筋道は有名だ。
匿っていた源義経(みなもとのよしつね)を殺して、差し出したからだ。

源頼朝(みなもとのよりとも)はいずれ奥州全土を征伐・制圧するつもりだったが、もしかすると「奥羽の一部は奥州藤原氏に任せる」という選択もあったかも知れない。

奥州藤原氏としては、先代(藤原秀衡)の遺言通り源義経を総大将に立て、それなりの戦略を立てて戦術的勝利をいくつか重ねてさえ行けば(なにせ自分らの本拠地なのだから)、源頼朝率いる鎌倉軍との間に戦略的妥協とか、戦力拮抗からくる講和とか、いろんな道が開けた可能性はある。

もうただの想像でしかないが、奥州藤原氏に一縷の望みも叶わなかったのは、もちろん源頼朝の断固たる意思が大きいとはいえやはり、「藤原泰衡がちょっと暗愚すぎた」と言えるのではないだろうか。

奥州藤原氏の滅亡と、源義経の死は同時ではない。
奥州合戦に出撃した鎌倉軍、公称20万騎に、源義経軍が撃滅されたわけではないのだ。
源義経は戦死していない。

まず源頼朝は「奥州を攻めるのは源義経を匿ってるからだぞ!?」という脅しで、奥州藤原氏の方針を混乱させた。これも、首領としての藤原泰衡の貫禄が小さいから起こった混乱だと言える。とは言え、源頼朝からの要請で朝廷が出した「源義経追討の宣旨」を、藤原泰衡は拒否している。一度は、父の遺言に従った形となった。しかし、これに源頼朝が激怒。
今度は「泰衡追討の宣旨」をもらうべく朝廷に働きかけることになった。

奥州からは「まぁまぁそう怒らずに…。源義経をもし見つけたらすぐに捕まえて差し出しますんで…」というような連絡が来た。どちらにしても攻め込むつもりだった源頼朝は、朝廷からの宣旨を待たずに出兵する。激怒はフリだったのか、芝居だったのか、源頼朝の考えることはよくわからない。

当然、よし明日出発するぞ、と言って十数万騎がすぐに準備できるわけはないので、もうかなり前から各方面の用意は入念に進められていたのだろう。

四代・藤原泰衡は「源義経さえ殺せばとりあえず自分は大丈夫なはずだ」と踏んで、決行する。
平家討伐に大活躍した源義経はけっきょく京に戻ることも、幕府の重鎮になることも叶わず、東北の地で家族共々追い込まれた。源義経はまず妻子を自分で刺し殺し、次に自分で胸か喉を突いて死んだ。

奥州に攻め込んだ鎌倉軍にさんざんに打ち破られ、東北軍は潰走した。
藤原泰衡は平泉の居館などに火を放って逃げた。

けっきょく、4月に父の遺命に逆らって源義経を殺した藤原泰衡は、同じ年の9月に、自分の部下の裏切りで死ぬことなった。

源頼朝は彼の首を象徴として、勝利のシンボルとして釘を打ち付け、たかだかと掲げた。
それは、源頼朝の先祖、源頼義(みなもとのよりよし)が、藤原泰衡の先祖(藤原清衡の父)である藤原経清(ふじわらのつねきよ)・安倍貞任(あべのさだとう)と戦って勝った「前九年の役」の再現であった。

同じ場所までわざわざやって来て(もう勝利は確信してるので総大将がわざわざ来る必要がない)、100年前の勝利宣言(敵将の首をたかだかと掲げる)をする必要はないのに、だ。

源頼朝にはその必要があった。

源氏軍を率いているとは言え、実は源氏本流とは言い難い部分のある河内源氏の、そのまた傍流になりかねない自分の、正当性をしっかりとここで打ち出すことに大きな意味があったからだ。

まだ全国には、源氏の流れを汲む人たちがたくさんいる。
その人らに、ああもうどうしようもない、従うしかないと思わせる宣伝効果が、この「藤原泰衡の首」にはこめられた。あの劇的な勝利の再現を、演出としてやることで、源氏を率いるのは絶対に自分しかいないのだ、と知らしめた。これをやるために、東北の山奥まで攻め込んできたのだ。
源頼朝の考えていることは、よくわからない。

これが「藤原泰衡の首」として「発見」されたのはなんと昭和になってからだ。
それまでは「藤原忠衡(ふじわらただひら)の首」だと思われていたそうだ。
藤原忠衡は藤原泰衡の異母弟で、例の「源義経をどうする」論争で兄とモメ、殺されたとされている。

本格的かつ化学的な調査で、直径約22mmの穴が頭蓋骨を貫通しており、それが源頼朝が梟首した証拠だという。

だがよく考えたら、歴史的な伝承からすれば、そんな穴が開いている頭蓋骨を、藤原泰衡か?藤原忠衡か?で地元の人が間違うはずがない。
誰がどう見ても、科学的な調査などしなくても藤原忠衡ではないことはわかるはずだ。

これには「判官贔屓」が働いていると言われている。
つまり源義経を非業の武将とし、かわいそうだとして美化する風潮から、彼に味方した藤原忠衡こそ、丁重に葬られるべきなのだという感情が「伝・藤原忠衡」としての保存を可能にしたのかも知れない。
皮肉にもそのせいで頭蓋は現代にまで残され、藤原泰衡が源頼朝によって梟首され「前九年の役の再現」をしたことまでを証明することとなった。

あるかな〜と思って検索したら、こういうところがやっぱりあった。

藤原泰衡の首洗い井戸

同時に、三代の遺体も調査された。
ミイラ化して安置されているというのは有名だが、伝説とされていたその様子が本当だったことで、世界的な話題になった。

初代清衡は左側(向かって右)の上腕骨と前腕骨の骨影は薄く、骨萎縮(骨粗鬆症)があるので、反対側の脳に脳卒中があったものと想像される。

第二代基衡は右側大腿骨に同じく骨粗鬆症があり、左側脳に脳卒中があったものと想像される。

第三代秀衡は義経を助けた人であるが、胸椎にカリエス或は脊髄炎があったものとおもわれる。

第四代泰衡は右側側頭骨に刀で切られた割創があり、奮戦の末捕らえられ、左側前頭部に八寸釘を打たれ、さらし首にされたものである。

藤原四代は何れも鼻根部が扁平で、アイヌ族の如く陥凹がないので大和民俗である。

泰衡の頭には22ミリの穴
レントゲン調査で分かった藤原4代
足澤医師が講演
https://www.komonjokan.net/cgi-bin/komon/topics/topics_view.cgi?mode=details&code_no=332&start=

【TBSスパークル】1950年3月22日 藤原四代のミイラにメス(昭和25年)

奥州藤原氏が栄華を極めた平泉に建てられた中尊寺。
なかんずく金色堂はいわば富の象徴であり、究極の信仰対象となった。
そこに自分たちの遺体を、火葬も土葬もせず安置するという発想はいったいなんなんだろう。

四代目の藤原泰衡は殺された後安置されているが、それ以外の3人は、自ら望んでそういう形態で祭祀の対象となっているのである。
その理由はわからない。

平和を望んだ、とか人民の心の安寧など、さまざまな理屈が各方面から語られるわけだが、だからと言って「皆金色」にしたお堂に、ミイラ化させた状態で自分を寝かせておく理由にはならない。
とうぜん、「神の審判が降って復活の日が来る」という信仰なども無い。
なのに、なぜ。

その理由はわからない。

わからないからこそ、このまばゆきお堂の仏たちが、永久に続く魅力とご利益を放っているように見えてくる。

そして絶対的で強固な意志を持って「奥州武装中立」を滅亡させようと目論んだ源頼朝でさえ、金色堂を破壊しようとは考えなかったようだ。その後の戦国武将たちも、中尊寺を庇護こそすれ破壊して簒奪しようなどとは考えていない。
ああ、豊臣秀吉が「金銀字交書一切経」を強奪していった、という例はあるものの…。

900年の間、もしかすると「あそこにはミイラがあるらしいぞ(その当時の言葉で)!」という噂が「他のところはともかく金色堂だけは絶対に冒してはならないんだ」という、土着の恐怖・異質な呪詛となって、封印効果を発していたのかもしれない。

それくらいのことがないと、900年も盗掘も放火も掠奪もなくあのキンキンギラギラの状態が維持できるわけがない。

信仰の中心であった中尊寺は、同時に「手を出すとヤバい」とDNAレベルで全人類が畏れるべき恐怖の聖域だったのだろう。

これを、奥州藤原氏の「発明」とも言える新しい伝統継承の手管だと考えると、「浄土に焦がれる」という平安貴族たちの宗教観とを超えた、重く生々しい、「死と再生の願い」のようなものを感じずにはいられない。

建立900年 特別展「中尊寺金色堂」
https://chusonji2024.jp/







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