いや、だめみたいです。
土用の丑の日はいらない、ウナギ密輸の実態を暴く
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7379
「土用の丑の日」が引き起こすウナギ業界の「異常」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7428
当たり前のようにすごい勢いで夏になると「スタミナ食」として取り上げられるしテレビでも特集してるし、江戸と上方ではさばき方が違うとか江戸は武士が多いからハラキリを連想させないように背中から開くとか、色々聞いているうちに「ああ、ウナギって高いよね…」なんて言いながらあんまり食べない、という年もあったり、でも「ウナギといえば土用の丑!」というのはすごく世間に定着していて、何の疑いも持ってないですよね、普通。
子供の頃は「どよー、の、うし?」と聞いても、別に「サタデービーフ」でもなさそうだし、何でウナギなんだろう?と素朴に疑問でした。
大人になると、「これは伝統であるッ」という情報シャワーを間断なく浴びて「伝統は黙って守るのが大人というものである」というような激しめの同調圧力に負けて、いつのまにか無自覚に、伝統を守る側に立ってしまっている、という状態、でした…(ですよね?)。
土用というのは、主に今は夏の土用のことを指しますが、本当は年に4回あります。
実は「土用」はその字のごとく、「土の気」が盛んになるとして、土を触るような作業はやめておきましょう、という期間なんですね(特に初日は)。
とはいえ「五行」から来ていることなので、よくわからないままそういうのは犯し続けているのが現代の我々ですが…。
仏滅だって結婚式はあげますし、いや友引は焼き場が休みなので葬儀は少ないけど(これらは「陰陽」、ですね)。
誰が言い出したのだッ
暑い時期にウナギを食べて精をつける!というのは、実は万葉集に載っています。
大伴家持(おおとものやかもち)という人が詠んだ歌に、以下の二首があります。
A
●原文
石麻呂尓吾物申夏痩尓吉跡云物曽武奈伎取喫
●読み下し文
石麻呂に吾(われ)物申す夏痩せに良しといふ物ぞ鰻(むなぎ)漁(と)り食(め)せ
●意味
石麻呂に言ったのです、「夏痩せにはウナギがいいらしいから、取って来て食べたらどうです?」と。B
●原文
痩々母生有者将在乎波多也波多武奈伎乎漁取跡河尓流勿
●読み下し文
痩す痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻(むなぎ)を漁(と)ると川に流るな
●意味
痩せてても、別に生きているだけでまぁいいんだから、川までウナギ取りに行って溺れたりして死なないようにしてください。
大伴家持は、三十六歌仙の一人。
百人一首には「中納言家持」として登場します。
上の2つの歌は、吉田石麻呂というジイさんがいて、その老人に対して(えらい人だったらしい)、ごちゃごちゃ言ってないで、とりあえず夏はウナギでいいでしょ!と常識的に語っている。
「夏はウナギ」。
いや、「土用の丑の風習」は、江戸時代に平賀源内がキャンペーンとして開始したのが最初、って聞いたことないです?
江戸時代のド天才・平賀源内は、たぶんこの大伴家持の歌を、知ってたんでしょう。
夏にウナギが売れなくなった業者に、「土用の丑」だから「う」のつく食べ物を!という屁理屈で、ウナギを売り出したらどおでえ?と提案したんでしょう。
これがもう、めちゃくちゃに当たった。
そこから今まで、ほぼ何の疑いもなく「夏はウナギ」と思い込んでるわけですから。
脂のノリからすると本来ウナギの旬は秋頃なのだそうですから、まぁ「売れない時期に売るコピー」が、空前絶後のスケールでヒットした、ということですね。
絶滅は?する?
環境省は「レッドリスト」としてカテゴリー分け(ランクづけ)をして、絶滅が危惧される種を公表しています。
それは、以下のように分けられています。
●絶滅 (EX)…我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
●野生絶滅 (EW) …飼育・栽培下、あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種
●絶滅危惧I類 (CR+EN)…絶滅の危機に瀕している種
●絶滅危惧IA類(CR)…ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
●絶滅危惧IB類(EN)…IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
●絶滅危惧II類 (VU)…絶滅の危険が増大している種
●準絶滅危惧 (NT)…現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
●情報不足(DD)…評価するだけの情報が不足している種絶滅のおそれのある
●地域個体群 (LP)…地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの
以上の中で、今言われている「ニホンウナギ」は、情報不足(DD)から絶滅危惧IB類(EN)に変更されたんですね。
曰く、「過去10年もしくは3世代の長い期間を通じて、50%以上の減少があったと推定される」と。
昔は「よくわからなかった」ウナギですが、研究が進んで、わかってきたからこそ「これはマジでやばい」となってきた、ということですね。
ちなみに、「絶滅 (EX)」は3種。
チョウザメ
スワモロコ
ミナミトミヨ
この↑データは2013年のもののようで、真ん中の「スワモロコ」が2016年、諏訪湖の流入河川で見つかったんヨ!っていうニュース、ありましたよね。
もはや「ミナミトミヨ」は形も想像もできないくらい、見たことないです。
ニホンウナギと同じく、「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されている魚はたくさんいます。
あの「ムツゴロウ」もそうなんですね。
【汽水・淡水魚類】環境省第4次レッドリスト(2013)<分類群順>
http://www.env.go.jp/press/files/jp/21437.pdf
そして…
【哺乳類】環境省レッドリスト2017
http://www.env.go.jp/press/files/jp/105449.pdf
…によると、哺乳類の絶滅種は7種。
オキナワオオコウモリ
ミヤココキクガシラコウモリ
オガサワラアブラコウモリ
エゾオオカミ
ニホンオオカミ
ニホンカワウソ(本州以南亜種)
ニホンカワウソ(北海道亜種)
ニホンウナギと同じく、「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されている哺乳動物は12種。
オリイジネズミ
エチゴモグラ
オガサワラオオコウモリ
オリイコキクガシラコウモリ
オキナワコキクガシラコウモリ
コヤマコウモリ
リュウキュウユビナガコウモリ
リュウキュウテングコウモリ
アマミトゲネズミ
トクノシマトゲネズミ
ケナガネズミ
アマミノクロウサギ
コウモリが減ってるなぁ。
もはやニホンウナギは、「リュウキュウテングコウモリ」クラスにヤバい、と考えれば、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。できないか。
「準絶滅危惧種」とされる、18の哺乳動物に「トド」が含まれており、もはやニホンウナギは「トド」よりヤバい、と考えれば、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。
食うのやめろっってば
では、この絶滅を防ぐには、どうしたらいいんでしょう。
簡単ですよね、
「捕らなきゃいい」んでしょう。
ライオンが絶滅しそうだ、となったら、病気を防ぎ群れを管理して、密猟者をやっつける。
アフリカではこれで、かなり数を回復してきたんですよね。
ウナギでも、それをやればいい。
でもなかなか難しいようです。
もちろん、海洋汚染や温暖化などの局地的な自然要因はあるとは思いますが、「誰も食べなければ誰も捕らない」んですから、「捕らなかったら増える」のは当たり前ですよね。
種類によっては、クジラもそれで数を回復しています。
でも、ライオンの密猟者が市場で堂々と看板出して「もうウチャぁ5代目だからヨウ!」とか言ってくれてればわかりやすいんですけど、そんな密猟者はいないからイタチゴッコで取り締まることになる。
ウナギの場合はちゃんと国が昔から許可してるもんだから、鰻屋さんは「困ったモンだねえ」と言いながら今日も仕入れる。明日も仕入れる。
仕入先があるから、問屋も買い付ける。明日も買い付ける。
買い付けてくれるなら、業者は捕る。明日も捕る。
売ってるからみんなは食う。今年も食う。
食うから…
環境省が、本気出すしかないですねこれ。
平賀源内もまさか、絶滅の危機に瀕するほど日本人がウナギを乱獲するなんて思ってないし、まさか消費スピードに完全養殖技術の確立がぜんぜん追いつかないなんて、昭和人も思ってなかったですよね。
ちなみに、「養殖」するにもまず「シラスウナギ(稚魚)」を捕まえてこないといけないんだそうです。
その意味で、稚魚はどっかで生まれててくれないといけない。
これを獲り尽くすと、もう人間では回復できない。
ウナギ(成魚)を捕まえる→卵を産ませる→育てる→卵を産ませる
この連鎖は、まだ不可能なんですね。
稚魚を捕まえる→育てる→食う
これをやってるだけ。
だから、「私らが食べてるのは養殖だから大丈夫!」というのは、大きな間違いです。
そりゃ、これ繰り返してたら減るでしょう。
しかも、稚魚を養殖するとなぜか全部「オス」になってしまうそうで、逆に河川で見つかる「純・天然ウナギ」はほとんどが「メス」なんだそうです。
それもまだ、真っ暗闇の謎、なんですよね。
まだまだ研究は必要で、どんどん進んでいるとは思うんですが、あらゆるレストラン・あらゆる牛丼屋・全てのコンビニで「ウナギ」と看板が掲げられ幟(のぼり)はためき、日本の消費者だけでなく中国もその味・旨さに気づいて怒涛のペースで追い上げてきている。
まさに「絶滅待ったなし」です。
もう、やめるしかないですね、食べるの。
今流通してるぶんは罪はないだろう…いえ、そんなことないでしょう。
国が規制して供給がストップしたという事実がない限り、今市場にウナギがあるということは、在庫確保のために常にどんどん捕獲されることになります。
来年、今年、今月、今日、今、ウナギを食べるのを直(ただ)ちにやめないと、ウナギは絶滅します。
そして争奪戦。
「売ってるから食う」は、しらをきり通してもやっぱり、絶滅に加担していることになりますよね…。
実にアホらしい。
こういうこと言うと、「おう?じゃあ鰻屋に、死ねっていうのかい?」という問題が出てきますよね。
死ねなんて言ってません。
やめろって言ってるだけです。
同じこと?
やめたら死ぬ?
だったらウナギが絶滅したらあんたらどーせ死ぬんだろーが。
完璧な養殖技術がいつか開発されるまで待つべきです。
ウナギは、絶滅したらもう取り戻せないんです。
さらに言えば、養殖がいくらできてもダメだったことは、トキでわかってるはずでしょう。
基本的にジジババたちは「さすが伝統のウナギ」という、あの香ばしいニオイで脳が麻痺したように「絶滅しそうだからやめよう」という意見を取り入れてくれません。
多くのジジババたちは「私たちは逃げ切る。あとは知らん。若い者がなんとか頑張れ。ウナギうまい。贅沢。本場。江戸。」みたいな思考しかしないので、いくら言っても無駄です。
無視していったん、全面禁止すべきです。
…ここまで書いてきてなんですが、ウナギって、食べ方のバリエーションなさすぎません?
蒲焼?
あのタレ、マストじゃないです?
逆にあのタレなしで食べる、メインになる料理法って有名です?
あんまり無いですよね。白焼きもいいけど。
…ひょっとして、「タレ」、かなり重要ですよね?
もう、ウナギのタレだけは「土用ダレ」とか「うダレ」とかいう名前にして、「土用の丑にはタレかけご飯を食べよう!」ってキャンペーンを、国をあげてやったらどうでしょう。
そこに、いろんなおかずが乗ったセットで、なんとかいけそうな気がするんですけど。
…というわけで、これをいただきました。
魚のすり身に、「あのタレ(土用ダレ)」。
もう、これでええやん感満載でした。
ウナギのタレ大正解。大正義。
ウナギとは当然、食感は違うわけですが、要するにあんたら白飯食いたいだけでしょ?
大盛りにしたいんでしょ?
醤油と砂糖の甘いタレかけて。
これでじゅうぶんです。
ウナギに便乗している感があるのか、これもそんなに安くは無いんですがw、はっきり言ってもっと凝ってなくてもいいくらいです。
なんとなく白いご飯を食べたいなら、「タレ+○○」は、いくらでも思いつく気がする。
今はスーパー行ってもパスタソースもいろいろあるわけだし、ふりかけだっていろいろあるわけだし、ウナギが資源としての量を回復するまで、なんとかそちらへ誘導できないものかなぁ、と思ったりします。
絶滅に瀕している動物を前にしてみれば、「江戸の伝統」なんてものは、カスですから。
クズですから。
で再度言いますが、「ウナギ関係者に死ねというのか?」という文言は、通りません、なぜなら「ウナギが絶滅したらどっちにしてもお前らは死ぬ」からです。
ではさようなら。